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世界に法の支配を実現するミドルパワー同盟が必要
民主主義とグローバリゼーションに立脚した世界に向けて
[2026.5.1]
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| 米軍の空爆で黒煙を上げるイランの首都テヘラン市街地 (2月28日) |
| PHOTO(C)LEUTERS |
グローバリゼーションのトリレンマ
米国の経済学者ダニー・ロドリックは、「グローバリゼーション」と「民主主義」と「国家主権」の3つを同時に成立させることは出来ないと指摘した。
これは「グローバリゼーションのトリレンマ」と呼ばれる。
ホッブスやジョン・ロック以降、近代における国家観や政治理論は、いずれも「国家主権」と「民主主義」の概念を中心に展開されてきた。
しかしながら、そこに「グローバリゼーション」の概念が加わると、近代的国家観は音を立てて崩れ去ることになる。
グローバリゼーションとは、経済を中心にして世界が垣根を越えて繋がりを増やしていくことである。
とりわけ現代はインターネットの普及により、あらゆる物流や情報や資産等が国境の垣根を超えて流通するようになった。
そして「グローバリゼーションのトリレンマ」の観点に立てば、現代世界は3種類の「国家」に分類されることになる。
グローバリゼーションと民主主義と国家主権の内、グローバリゼーションと民主主義の2つに立脚しているのが、ヨーロッパ連合すなわちEUである。
EUは、加盟各国の国家主権を放棄する形で、グローバリゼーションと民主主義を両立させている。
一方、国家主権とグローバリゼーションの2つに立脚した典型的な国家が中華人民共和国である。
中国は国家主権を強化しながら多民族国家を一つにまとめてきた。
とりわけ習近平政権になってからの中国は、「一帯一路」政策によって中国版のグローバリゼーションをユーラシア大陸全域およびアフリカ大陸にまで拡大しようとしている。
なおこのような中国に「民主主義」は存在しない。
他方、19世紀型の国家モデルを理想として、グローバリゼーションを全否定し、国家主権と民主主義に立脚しているのが米国のトランプ政権である。
今やトランプ政権は、関税政策を強化したり、他国を侵略するなど、国家主権を前面に押し出している。しかしながら、それでも民主主義は機能しているのである。
このように、現代世界の国家は概ね上記の3種類に分類される。
因みに戦後の日本は、国家主権を犠牲にして、グローバリゼーションと民主主義の2つに立脚した国家である。
日本は80年間、米国一辺倒のグローバリゼーションと民主主義システムを維持してきた。
しかしながら今や日本が唯一頼りにしてきた米国は、国際秩序や国際法を否定し、国家エゴを強力に主張する帝国主義国家と化している。
もし日本がこれからもグローバリゼーションと民主主義を続けてゆくつもりであれば、米国一辺倒のままでは必ず破綻する。
世界は今や大きな分岐点に立たされている。
今後、日本が同盟を結ぶべき相手国は、グローバリゼーションと民主主義に立脚し、「法の支配」を尊重する国々でなければならない。
トランプ大統領の米国は、近い内にNATOから離脱する予定であるが、同時に米国とEUとの関係も断たれる事は確実である。
そしてその場合は、国際社会における日本の立場が問われる事になる。
「米国なき世界」において日本は、同じ価値観を共有するEUとの対等な同盟関係を構築してゆく必要がある。
もともと米国との「主従関係」など、いつまでも続けられるものではなかったのである。
トランプは他の同盟国に対し「タダ乗りは許さない」などと言っているが、日米同盟の場合は、むしろ米国が「タダ乗り」をして、日本は損ばかりしてきたのであった。
そうした「主従関係」のニセ同盟は、イザという時には脆いものである。
一方、高市政権は現在、「国家主権」を強調する憲法に向けた改憲を検討している。
ただし「国家主権」を公然と主張する事は、日本がグローバリゼーションを捨てるか、それとも民主主義を捨てるか、という選択を余儀なくされる事を意味する。
「グローバリゼーションのトリレンマ」の原理によれば、「グローバリゼーション」と「民主主義」と「国家主権」の3つは同時に成立し得ないからである。
憲法改正によって「国家主権」を殊更に強調するのであれば、日本はグローバリゼーションを捨てて世界中から孤立するか、あるいは民主主義を捨てて独裁国家となるか、という「悪魔の選択」が迫られることになる。
資源に乏しい日本の場合は、グローバリゼーションを絶対に捨てるわけにはいかない。資源が豊富で自給自足が可能な米国とは立場が全く異なるからである。
すでにインターネット網が地球上に隅から隅まで張り巡らされた現在は、世界全体が一体不可分の世界であり、グローバリゼーションを抜きに各々の国家は存立し得ない。
グローバリゼーションの世界の中で、わざわざ「国家主権」を強調し始めたら、世界から孤立して「トランプの二の舞」になるだけである。
ローカルな日本国憲法を改正する意義など、とっくに消滅しているのである。
我が国の在り方は、民主主義とグローバリゼーションに立脚する他に選択肢はあり得ない。
今後の日本の政治に必要な事は、EUをはじめとする「ミドル・パワー」諸国との同盟を通じて「法の支配」に基づく国際社会の枠組みを目指す事であって、今さらローカル憲法の条文を考える事ではないのである。
米国がイラン戦争をやめられない理由
今年2月28日に勃発したイラン戦争は、早くも約2カ月を経過した。
トランプ大統領は、1月のベネズエラ攻撃の時のようにイラン攻撃も数日で終了すると考えていたのだろうが、見込み違いも甚だしい。
泥沼化しつつあるイラン戦争は、未だ「出口」が見えない状態にある。
そもそも今回の軍事衝突は、米国が一方的に始めた戦いである為、本来ならば米国が一方的に撤退を表明すればそれで終わるはずの戦争であった。
では、なぜ米国はこの戦争をやめられないのか。
米国がイラン戦争を開始した表向きの理由は、イランの核開発やミサイル技術などの「差し迫った脅威」を除去すること、さらに核開発を推進するイランの政治体制の変更であった。
だがこれらを戦争目的に設定したならば、米国はこの戦争を永久に終える事が出来ないのである。
確かにイランの軍事施設や核関連施設は相当程度破壊された上に、最高指導者のハメネイ師をはじめ要人もかなり殺害された。
しかしながら、今回の米軍による攻撃によってイラン国民の反米感情がより一層高まった為、親米政権への「政治体制の変更」の可能性は、ほぼ絶望的になったと言える。
またイランから完全に「核開発の可能性」を除去しようとするならば、単に施設を破壊するだけではなく、核開発のノウハウを持つ技術者を全員排除しなければならない事になる。
だが現実にそれを実行しようとするならば、米海兵隊や地上軍を派兵して、イラン正規軍のみならず革命防衛隊をも壊滅させた上、イラン全土を軍事制圧しなければ不可能である。
現在イランの核開発技術はかなりの水準まで達しており、ウラン濃縮60%まで実現していると言われる。
仮に停戦が実現しても、イランが極秘裏に核開発を継続すれば、わずか6カ月後にはウラン濃縮90%まで実現すると見られる。これは実戦配備が可能なレベルである。
従って、たとえイランとの停戦が実現したとしても、米国としては6カ月以内に再びイランを攻撃せざるを得なくなるのである。
このように米国が当初の「戦争目的」を達成しようとするならば、永久に戦争を終結する事が不可能となり、気の遠くなるほど長期の泥沼戦に陥る事になる。
それはトランプ政権が最も避けたい事態である。
もともとトランプ政権は、米州以外への軍事介入はやめるべきだと主張して民主党バイデン政権を批判し、「戦争をしない」と公約して米国民から選出された政権であった。
そのため米国内においては、トランプの岩盤支持層であるMAGA派などを中心に、「イラン戦争なんか早く終わらせるべきだ」という主張が激しく沸き起こっている。
このように、トランプ支持であるがイラン戦争には反対するという立場が、MAGA派の「ヴァンス路線」である。
だがその一方で、トランプ支持基盤には、キリスト教福音派を中心とした伝統的保守勢力が存在する。
事実としては、米合衆国の総人口の4分の1を占めるキリスト教福音派の支持があったからこそ、ドナルド・トランプは大統領になれたのである。
トランプ大統領としては、こうした伝統的保守勢力を裏切るわけにはいかない立場にある。
キリスト教福音派などの伝統的保守勢力は、米国は「神の国」であるから「約束の地」(=イスラエル)を守る為にハルマゲドン(=世界最終戦争)を起こして新約聖書の予言を成就させなければならない、とする。
新約聖書の予言成就とは、「救世主(=キリスト)の再臨」と「至福千年王国」の到来である。
そしてそれを実現してくれるのがトランプ大統領だと期待している人々が福音派に数多く存在する。
またトランプもその性格から、彼等の期待に応えようとし、あるいはそのように演じようとしている。
そのためには、中東におけるハルマゲドンの「聖戦完遂」に邁進するしかないのである。
これが伝統的保守勢力の「ルビオ路線」である。
このようにトランプ大統領は、「ヴァンス路線」と「ルビオ路線」の両者の狭間で板挟み状態にある。
そのためイラン戦争は、「攻撃」と「停戦」とを、ひたすら繰り返す形にならざるを得ないのである。
「攻撃」と「停戦」のサイクルを自転車操業のように回転させ続ける事によって、トランプはMAGA派と福音派の両方からの支持を獲得し続ける事が出来るのである。
因みにトランプ大統領にとっては、イラン戦争が長引いた方が何かと都合が良い事も事実である。
ホルムズ海峡封鎖によって、世界の各国が中東からの原油調達を断念するようになれば、そうした国々は米国産の原油を米国から買わざるを得なくなる。
この事は、米国内の石油業界にとって莫大な利益になる上に、米国内の雇用も増え、トランプの支持基盤である「ラストベルト」の労働者達や白人失業者達を喜ばせる事にも繋がる。
そもそも中東から原油を輸入していない米国にとっては、ホルムズ海峡が封鎖されても痛くも痒くもないのである。
むしろホルムズ海峡が封鎖され続けていた方が、米国にとっては大きな利益になる。
そのためイランがホルムズ海峡を開放した直後、トランプ大統領は「逆封鎖」を実行に移して、民間船舶がホルムズ海峡を通過できない状況を積極的に作り上げたのである。
今後もトランプ政権は、イランにおいて「攻撃」と「停戦」とを延々と繰り返し、ホルムズ海峡を封鎖し続けるであろう。
世界経済の中心は米国から中国へ
トランプ政権は、これまで歴史的に米国が積み上げてきた世界からの信頼をことごとく裏切ってきた政権である。
トランプ大統領が就任して以降、「ドル不安」は止まらない状態にある。
所謂「トランプ関税」が打ち出された結果、世界中の投資家達の米ドルに対する信頼は低下し、ドル不安が生じた。
現在、イラン戦争の緊迫化に伴い「有事のドル買い」が生じているが、あくまで一時的に米ドルが「弱くて高いドル」に転じただけであり、一段落すれば再び「弱くて安いドル」に戻る事は誰にでも分かる。
世界的な「ドル離れ」の動きそのものは、バイデン政権時に米ドルが石油の裏付けを失って、基軸通貨としての地位を喪失した時から顕在化していた。これらの事情については、以前に本HPにおいて詳細に述べているので参照して頂きたい。
そしてそれを「ドル不安」という形でさらに悪化させたのは「トランプ関税」を始めたトランプ政権であった。
一方、中国が世界最大の貿易立国にまで成長した現在、自壊する米ドルの「受け皿」になり得る通貨として中国の「人民元」が、グローバル・サウス(Global
South)と呼ばれるアジア・アフリカ・中南米の発展途上国や新興諸国から期待されている。
米国のルビオ国務長官は、今年3月のフォックスニュースとのインタビューで、中国とブラジルが米ドルではなく人民元で貿易決済を行う協定を結んだ事に、強い危機感を示している。
中国とブラジルによる「ドル離れ」は、BRICSが世界経済の牽引役として、米国に取って代わるという歴史的転換を象徴する出来事でもある。
因みに、2025年時点でブラジルの貿易総額は6450米ドルであったが、その内、対中貿易の規模は1750億米ドルと27%に相当する。
10年前の2016年は600億米ドル程度であり、対中貿易の規模は10年で約3倍も増えている。
一方、対米貿易の規模は2025年時点で870億米ドルと、対中貿易の半分程度に過ぎず、対EUの1030億ドルよりも少ない。
こうした中国とブラジルの貿易関係を考えれば、ブラジルが中国の人民元による決済を増やす事は当然の流れであった。
ブラジルの対中貿易収支は一貫して黒字である為、人民元で決済をすれば、支払う人民元よりも受け取る人民元が多くなる。
その上、米ドルに代わる国際決済通貨として中国の人民元を欲している新興国が多くなった為、外貨準備として大量に人民元を保有しているブラジルにはメリットが大きいのである。
こうして人民元が国際化する事は、ゆくゆくは人民元を世界基軸通貨にしようと目論んでいる中国にとって歓迎すべき事である。
今や世界経済の中心は、米国から中国へと移行しつつある。
2037年には、中国のGDPが米国を追い抜いて世界一になると予測されている。
またその頃には、軍事力も中国が米国を上回るであろう。
かくして名実ともに「パックス・シニカ」(中華による平和)が実現することになる。
こうした米中逆転の流れを肯定するのがヴァンス副大統領に代表されるMAGA派であり、逆に中国を封じ込めて米国一強体制を維持しようとするのがルビオ国務長官に代表される伝統的保守派である。
「中国封じ込め」の長期持久戦としてのイラン戦争
イラン戦争が膠着状態に陥っている中、中国の今後の動きが極めて重要である。
前回も述べたように、米国にとってイラン戦争の最大の目的は、中東における中国の覇権拡大を阻止する事にある。
トランプ米大統領は、4月上旬に予定されていた中国の習近平国家主席との首脳会談を5月中旬に延期し、次の出方を探っている。
イラン戦争開始以降、中国とロシアは、イランに対して米軍の軍事資産の位置情報を提供してきた。
この事についてイランのアラグチ外相は、4月14日の米メディアとのインタビューで、「ロシアと中国は我々の戦略的パートナーであり、過去から緊密な協力関係を築いてきた。現在もその関係は続いており、軍事協力もその一環である」と語った上で、「中ロとの軍事協力は秘密でも何でもない」と述べ、開き直っている。
中国にとっては、対イラン関係を対米交渉カードとして利用する事も可能である。
相次ぐ軍幹部や党幹部の粛清など、中国国内の権力闘争に追われている習近平にとって、当面の目標は、米国との間に不必要な衝突を避けることにある。
今回のイラン戦争の停戦交渉において、パキスタンが米国とイランとの仲介役を買って出た背景には、明らかに中国の意思が存在する。
中国と対立関係にあるインドと最も敵対関係にあるのがパキスタンであり、「敵の敵は味方」である為、中国とパキスタンは親密な友好関係にある。
かつてインドが核武装をした際に、それに対抗する為にパキスタンの核武装を推進させたのが中国であった。
今やパキスタンは中国の子分のような国であり、パキスタンが何か行動する際には、必ず中国の意思によって動かされていると見るべきである。
中東における重要拠点としてのイランを手放したくない中国は、とりあえず「一時停戦」の繰り返しによって、これ以上のイラン国内の被害拡大をストップさせたいと考えている。
また中国当局は、米国とイランとの停戦交渉が難航した場合に、米国が中国に協力を求めてくる可能性にも期待している。
トランプは米中を「G2」などと表現し、中国を米国と対等な大国と見做している事を公にしている。
さらにトランプは「台湾有事」において米軍を介入させるかどうかについては、一貫して態度を留保し続けており、習近平に期待を抱かせている。
習近平の思惑としては、近日中に開かれる米中首脳会談において、トランプから「台湾独立不支持」あるいは「台湾有事不介入」の言質を取りたいという目的がある。
「台湾独立不支持」あるいは「台湾有事不介入」のメッセージを米国大統領に出させる事が出来れば、次の台湾総統選において台湾独立派の頼清徳が敗北する可能性が飛躍的に高まることになる。
台湾の圧倒的多数の人々は、大陸との戦争に巻き込まれる事だけは避けたいと考えているからである。
かりに2028年の台湾総統選挙の結果、親中派の国民党が勝利すれば、中華人民共和国との間に平和的かつ合法的に「併合条約」を締結させる事も可能になる。
このシナリオが、習近平にとって最も理想的かつ現実的なパターンである。
「孫子の兵法」にあるように「戦わずして勝つ」ことが最上の策である。
習近平が台湾武力統一という危険な手段をとらず、台湾国内の世論工作を忍耐強く続けていれば、台湾に親中政権が成立する可能性も高まり、非武力による台湾統一が視野に入ってくる。
そうすれば中国は、米国を「武力による一方的な現状変更をした」と非難できる有利な立場に立てることになる。
かくして米中の「正義」の立場は逆転し、「パックス・アメリカーナ」の世界秩序が崩壊した後の国際社会において、中国が世界の「ルール・メーカー」としての地位を手に入れる事になる。
中国によるチベットや新疆ウイグルへの侵略の歴史は世界から忘れ去られる。
さらに中国が台湾統一を果たした後、中国は太平洋への大規模な進出が可能となり、ハワイ以西の太平洋を完全制圧する事が出来るようになる。
地政学上、中国にとって台湾は極めて重要な戦略拠点として位置付けられる。
台湾は中国にとって単なる「領土」ではない。
台湾は中国にとって「太平洋への出口」であり、且つ「海洋戦略の拠点」なのである。
ただし米国の伝統的保守派で「反中」の急先鋒でもあるルビオ国務長官を筆頭に、米国がそうした中国の動きを阻止するならば、習近平の思惑通りには事は運ばないであろう。
そもそも米国にとって、イランに対する軍事行動の真の狙いは「対中封じ込め」にあった。
米中対立が将来的に先鋭化する事を前提に、中東における中国の最大拠点を破壊する目的でイラン戦争が戦われているのである。
従って米国としては、イラン戦争の和平と引換に、中国の台湾併合を容認するなどという取引は、決してあり得ない事である。
石油資源の中心地である中東において中国の影響力を排除し、米国のプレゼンスを高め、資源安全保障を確実にした上で、本格的にインド太平洋地域で中国と対峙してゆく、というシナリオに沿って、現在の米国はイラン戦争を戦っているのである。
これは紛れもなく伝統的保守派の「ルビオ路線」の戦略である。
前回も述べた通り、イランは中国にとって事実上の盟友である。
2021年には、中国とイランは戦略的パートナーシップ協定を結んでいる。
また中国はイランを上海協力機構に招き入れ、習近平の唱える「人類運命共同体」構想、即ち中国版の新世界秩序の構築に向けたパートナーとして位置付けている。
中国にとっては、イランは「一帯一路」の最重要拠点であり、中東への覇権拡大の為の戦略的要衝でもある。
一方イランにとっては、良質なイラン産原油の約9割が中国に安価で輸出され、中国製造業の国際競争力を向上させてきた。
このように中国とイランの両国は、お互いに「ウィン・ウイン」の関係にある。
しかしながら、現在進行中のイラン戦争の結果、万一イランに「親米政権」が成立すれば、中国にとってはイランにおける経済的利益を失うだけでなく、「一帯一路」構想や、中国を中心とする新たな国際社会の再編、「人類運命共同体」構想といった習近平の野望が完全に挫折しかねない事態に陥ることになる。
何度も繰り返しになるが、今回の米国によるイラン攻撃は、あくまで対中戦略の一環であった。
米国にとってイラン戦争の公式の大義名分は、イランの核開発計画を放棄させる事であったが、その真意は、あくまで中国を封じ込める為の戦略である。
米国は、イランの核開発を推進させている張本人が中国である事を知っている。
中国は、かつてパキスタンを核武装させたように、今度はイランを核武装させようとしているのである。
その上で中国は、イランにイスラエルを核攻撃させる事を通じて、米国の影響力を中東から完全に排除し、ゆくゆくは中東全域を中国の手で支配したいと考えている。
そうした中国の意図が明らかであるが故に、米国としては、イランが核開発計画を完全に放棄しない限り、イラン戦争を絶対に終わらせるわけにはいかないのである。
イラン戦争は、中国のさらなる大国化を阻止する為の行動なのである。
これらは伝統的保守派のルビオ国務長官の戦略である。
一方、ヴァンス副大統領は、「G2」共存戦略で「米国と中国の2大国で世界を分割しよう」という立場である。
具体的には、「西半球は全て米国が支配し、東半球は全て中国が支配し、双方はお互いに介入はしない」というドンロー主義である。
そのため、仮にルビオ国務長官が失脚して、ヴァンス副大統領が全権を握るようになった場合には、トランプ大統領が中国の中東における覇権を容認する可能性もあり得る。
今後、もしイランが核開発計画を完全に放棄しない状態でイラン戦争が終結するならば、中国の習近平の戦略的勝利ということになる。
その場合、疲弊した米国は二度と中東に介入する事は無く、中国が公然と中東全域を支配する事になるであろう。
イランとの信頼関係を破壊しようとした高市首相
情報誌『選択』の記事によれば、3月19日に行われた日米首脳会談の際、高市首相はトランプ大統領の求めに応じて、自衛隊の艦船をホルムズ海峡に派遣しようとしていたらしい。
だが、それを内閣官房参与の今井尚哉氏が激論の末に阻止し、高市首相は激昂したが、やがて一転して弱音を吐き、退陣まで仄めかしたという。
もし本当に高市首相が「自衛隊の艦船派遣」を実行しようとしていたとすれば、極めて危険な事態であった。
それは昨年11月7日の国会における「台湾有事答弁」どころの騒ぎでは済まなかった話である。
日本にとって日米同盟が重要である事は言うまでもないが、仮に米国の方針に問題がある場合でも米国に同調しなければならないとすれば、それはもはや同盟関係ではなく「主従関係」に他ならない。
日本は歴史的にイランと良好な関係を築いてきた。
これは先の大戦以来、我が国の数多くの先人達が築き上げてきた信頼関係である。
しかしながら、そうした国家同士の数十年来の信頼関係を、トランプの口車に乗せられた高市首相は、一瞬で崩壊させようとしたのである。
「信頼を紡ぐのは一生、崩れるのは一瞬」と言われる。
国家間の信頼関係を毀損する行為は、テロリストよりも悪質であると言える。
このような高市首相の一体どこが「愛国保守」なのであろうか。
歴史的な関係性と地政学的な理由から、我が国はイランとの関係を引き続き大切にしてゆかなければならない。
日本がイランとの友好関係を維持するべきもう一つの理由は、トランプ大統領は土壇場で必ず手のひらを返す人間だからである。
そのため、どこかでいきなりアメリカとイランの関係が改善する可能性も否定できないのである。
基本的にトランプ政権は、二国間でのディールを重視する政権である。
空爆や斬首作戦などを続ける一方、水面下でディールを成立させて、突然和解が成立する事態も十分にあり得る事である。
もしそうなった場合、日本が極端なトランプ追随をしていると、米国からはイラン関係において「用済み」として捨てられ、イランからは恨みを買うという結果になりかねない。
今後何らかのディール(取引)が、米国とイランとの間で突如成立する可能性を考えれば、日本が一方的に米国に追従する事は絶対に避けるべきである。
むしろイランとの良好な関係を維持しておく事が、日本の国益にとっては最善策であろう。
「君子豹変」という言葉があるが、トランプのようにいつも豹変ばかりしている人間に対しては、尋常ならざる警戒心が必要なのである。
世界に「法の支配」を実現する「ミドル・パワー」の同盟が必要
今や世界は大きな分岐点に立たされている。
果たして今回のイランへの攻撃によって、米国やトランプにとって得るものがあったのかどうか。
確かにこの軍事行動によって、米国はイランの軍事力を削ぎ、イスラエルやユダヤロビーに恩を売った。
しかしながら、失ったものは遥かに大きいと言わざるを得ない。
国際社会からの米国の信頼は完全に失墜した。
喜んでいるのは、中国とロシアだけである。
このような状況を総合的に考えた時、日本が進むべき道は、米国一辺倒にならずに、歴史的な関係を尊重し、イランとの対話のパイプをしっかりと維持し続ける事である。
また「パックス・アメリカーナ」の世界秩序が失われつつあるこの機会に、我が国は同じ価値観を共有するEUや英国などの欧州諸国やカナダやオーストラリアとの同盟関係を本格的に構築するべきである。謂わば「ミドル・パワー」の同盟である。
現在進行中の米中2大国による世界分割は、いずれ米中対立をもたらし、米中戦争へと発展せざるを得ない。「両雄並び立たず」が世の常であるからである。
そして米中戦争は、最終的に「勝者のいない戦争」になるであろう。
かくして米中という2大国が両方とも衰退し、その後には、中小国の様々な利害が衝突し合う本格的な多極世界が到来する。
中国は多数の民族国家に分裂し、米国も各州が独立国のようになるかも知れない。
「ハルマゲドン(世界最終戦争)」の後に「至福千年王国」などは到来しない。
その後の世界は、多種多様な民族国家が乱立するカオス状態になるだろう。
しかしながらその時に、世界に「法の支配」を実現する「ミドル・パワー」の同盟が存在する事が、多くの人々にとっての希望となるはずである。
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