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米国の対中国戦略としてのイラン戦争
我が国はイラン戦争の調停に徹するべし
[2026.4.1]
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日米首脳会談 (2026年3月19日、ホワイトハウス大統領執務室にて)
左から高市首相、トランプ大統領、ヴァンス副大統領、ルビオ国務長官 |
| PHOTO(C)LEUTERS |
カール・シュミットの「友敵理論」
現在、世界中がトランプ米大統領の言動に振り回されている。
だがドナルド・トランプの言動を理解する上で欠かせない理論がある。
トランプの言動のパターンを規定しているのは「友敵理論」である。
「友敵理論」は、ドイツの政治哲学者カール・シュミットが唱えた概念である。
それは、政治の本質を「友と敵の区別」にあると定義する。
例えば、道徳には「善・悪」の区別があり、美学には「美・醜」の区別があり、経済には「利益・損失」の区別があるように、政治には「友・敵」という区別が存在する。
ただし政治の世界で言う「敵」とは、単なる競争相手ではなく「自らの存在を根本的に脅かす他者」をいう。
そのため政治的闘争が極限に達した時には、殺戮をも辞さない「友」と「敵」との峻別が生じることになる。
そして「友敵理論」が定義する「国家」とは、「例外状態」において「誰が敵か」を決断する主体である。
「例外状態」とは、法律が機能しない危機的状況をいう。大規模災害時や戦時のような「非常事態」がこれに相当する。
シュミットによれば、「例外状態」において、その秩序を決定する者(=決断を下す者)が、「真の主権者」である。
つまり、正しいか否かよりも、「誰が決断したか」という行為そのものが政治秩序の源泉になるという。
自由主義が重視する議会での「討論」や「合意」は、平時においては有効であるが、「例外状態」においては問題を解決出来ない。
そこでシュミットは、「国家」は中立的な利害調整者ではなく、「決断を下す強固な意志を持つ存在」であるべきであると主張する。
即ち国家は、物理的排除(=暴力)をも含む決断によって成立する存在なのである。
トランプの極端な議会軽視も、こうした理由によるものである。
政治の本質は、「友と敵」とを区別し、「排除するべき敵を確定すること」である。
トランプの行動様式の大半は、このカール・シュミットの「友敵理論」で説明出来る。
大統領選以前から、トランプは不法移民を「敵」と設定して、白人労働者層や失業者の支持を獲得してきた。
また直近においては、西側諸国のそれぞれの国家指導者を「友か敵か」で峻別しようとしている。
今年3月14日、米国のトランプ大統領は日本を含む7カ国にホルムズ海峡への艦艇の派遣を要請しておきながら、僅か3日後の3月17日には「艦艇の派遣は必要ない」と言った。
世界中のマスメディアや評論家はこれに呆れ返り、「トランプの方針は二転三転する」あるいは「政策に一貫性が無い」などと批判した。
だが実はこれがトランプ一流の手法なのである。
そもそもトランプは、諸外国の艦艇派遣など最初から期待してはいなかった。
トランプとしては、各国指導者の反応を見極めたかっただけである。
戦争という「例外状態」においては、誰が「友」で誰が「敵」であるかを明確にしなければならなかった為である。
NATO諸国はすでにトランプ大統領から「敵」として認定されている。
そうした中、3月19日にホワイトハウスで日米首脳会談が開かれ、高市首相は「米国の友」である事を猛アピールした。高市首相は、今何を為すべきかを理解していたようである。
国際社会で完全に孤立状態にあった米国にとって、この事は極めて有難い事であった。
世界が日米首脳会談を注視する中で、トランプ大統領はNATOを非難し、「日本は非協力的なNATOとは違う」と高市首相を高く評価した。
日米首脳会談では、ホルムズ海峡への艦艇派遣に関する話題はほとんど出なかったが、それは元々どうでも良かった話だからである。
首脳会談において、高市首相はトランプ大統領に対し、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」などと持ち上げ、「その為に出来る事は協力したい。今回はそれを伝えに来た」と述べた。
一見、これは御機嫌取りの追従の表現のように見えるが、実はこれは外交的言い回し表現であって、正しい意味は、「このイラン戦争を始めたのはドナルド(トランプ)であるから、イラン戦争を終わらせて世界に平和と繁栄をもたらせる事が出来るのもドナルドだけだ」という内容である。その上で、「日本はイラン戦争を終わらせる為に出来る事は協力したい。今回はそれを伝えに来た」というのが正確な解釈である。
つまり高市首相は、イラン戦争の調停を米国に申し出たのである。
イランとの外交的パイプを持つ日本としては、和平の為に出来る限りの事をする、という意味である。
因みに今年2月の衆議院総選挙での自民党圧勝がトランプ政権に与えた影響は大きい。
すでに述べたとおり、トランプ大統領の政治スタンスは「友敵理論」であるが、さらにトランプの行動パターンには、「強いリーダーだけを相手にする」「弱いリーダーは無視する」という態度がベースに存在する。
トランプ大統領は、プーチンや習近平や安倍首相といった長期政権の担当者しか相手にしないのである。
昨年10月にトランプ大統領が訪日した時には、高市首相が率いる自民党は少数与党であり、高市政権は短期政権に終わると見られていた。
そのためトランプ大統領は、11月7日の高市首相による「台湾有事発言」の際には激怒していたのである。
しかしながら、今年2月の総選挙で高市首相の長期政権が確実になった為、それ以降はトランプの態度がガラリと変わった。
さらに対中強硬派の高市政権が長期政権になった事によって、トランプ政権内部における力関係に大きな変化が生じた可能性がある。
米政権内部でのMAGA派と伝統的保守派との確執
もともとトランプ政権は、内部に相対立するイデオロギー上の矛盾を抱えている。
トランプ政権の方針に一貫性が無く、時には右往左往しているように見えるのは、この政権内部の確執が根本原因である。
まずトランプ政権を支えている岩盤支持層のイデオロギーは、MAGA(Make America Great Again)と呼ばれる「米国第一主義」である。
これは、「他国には介入せず、他国からの介入も受けない」というモンロー主義に基づく思想であり、政府は米国と米国民の利益を最優先するべきだとする。
そのため、MAGA派は中東への介入には反対しており、また台湾問題などで中国と対立する事にも否定的である。
MAGA派の立場では、もし台湾が中国に占領されたとしても、それはあくまで中国の問題であるから、米国は関与すべきではないとする。
トランプ政権内におけるMAGA派の筆頭は、ヴァンス副大統領である。
一方、MAGA派とは別に、米共和党には伝統的保守派が存在する。
米共和党を支える保守層の最有力が、全米人口の4分の1を占めるキリスト教福音派である。
米共和党の伝統的保守派は、「神の国」である米国は中東に介入する使命があると考える。また神を否定する共産主義とは戦わなければならないとする。
従って米共和党の伝統的保守派は、他国に対する「積極的介入主義」の立場であり、対イラン強硬派で、且つ対中強硬派でもある。
そのため伝統的保守派は、もし台湾が中国に占領された場合には、中国との戦争も辞さないという立場である。
トランプ政権内における伝統的保守派の筆頭は、ルビオ国務長官である。
なおルビオ国務長官は、中国当局から入国を拒否されているくらいの「反中国」の代表格である。
このようにトランプ政権は、不介入主義のMAGA派の「ヴァンス路線」と、積極的介入主義の伝統的保守派の「ルビオ路線」との確執の上に成り立っている。
そもそもMAGA派の「ヴァンス路線」と伝統的保守派の「ルビオ路線」とは全く相容れない矛盾した思想であるため、両者が同じ政党に属している事自体が、本来あり得ない事なのである。
従ってトランプ政権は、「政権ナンバー2」のヴァンス副大統領と、「政権ナンバー3」のルビオ国務長官との激しい「綱引き」によって、米国のあらゆる政策が左右されるという極めて不安定な状態にある。
トランプ政権の政策に一貫性が無く、二転三転しているように見える背景には、こうした政権内部の対立構造が存在する。
そもそもトランプが2期目の大統領選挙の際に、有権者からの人気を集める為に、元海兵隊員でMAGA運動のリーダーで作家のJ・D・ヴァンスを副大統領候補にしてしまった事が、第2次トランプ政権における混乱の発端であった。
そしてトランプ政権内部の混乱が、そのまま世界の混乱へと発展したのである。
本来、ヴァンスのような極端な原理主義者は、政治に関わるべきではなかったのである。
因みにヴァンス副大統領は、昨年3月のホワイトハウスにおけるトランプ・ゼレンスキー会談において、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して横から暴言を吐き続けた人間として広く知られている。
たかだか40歳の若造が、一国の元首に対して上からの物言いで暴言を吐く姿は、世界中に放送され衝撃を与えた。
そしてそれ以上に全世界に衝撃を与えたのが、昨年12月4日に発表された「国家安全保障戦略(NSS)」であった。
その内容は、一言で表すなら「狂気の沙汰」である。
2025年版の「国家安全保障戦略」は、従来の米国の伝統的な世界戦略を全否定し、MAGA派の主張そのものが反映された世界戦略に変貌しており、明らかにヴァンス副大統領の主導によって編纂された内容であった。
なお「国家安全保障戦略」の内容については、以前に本HPで詳細に説明しているので、そちらを参照して頂きたい。
要は、米国は「西半球支配」に徹するべきであって、それ以外の地域には関わるべきではないとするのが、ヴァンスが策定した「国家安全保障戦略」であった。
そして今年1月初頭の米軍によるベネズエラ侵攻は、まさしく西半球支配を目指す「国家安全保障戦略」を実行に移した行動であった。
しかしながら、2月28日に米軍が開始したイラン侵攻は、西半球から大きく外れた中東地域への介入であり、「国家安全保障戦略」とは全く矛盾する作戦であった。
この事は、ベネズエラ侵攻からイラン侵攻までの間に、米政権内部がMAGA派の「ヴァンス路線」から伝統的保守派の「ルビオ路線」へと180度の大転換を遂げた事を意味する。
因みに3月19日の日米首脳会談において、高市・トランプ間で合意された対中政策は、明らかに高市首相が望んでいた対中強硬路線であり、完全に「ルビオ路線」であった。
日米首脳会談についての米ホワイトハウスの「ファクトシート」によれば、
「2人の首脳は地域の安全と世界的な繁栄の不可欠な要素として台湾海峡の平和と安定を約束した」
「対話を通して中台間の平和的解決を支援し武力あるいは強制を含む一方的な現状変更のあらゆる試みに反対する」
とあり、明らかにホワイトハウスが「ルビオ路線」へと転換した事が見られる。
こうした「ルビオ路線」への転換は、「共和党の正常化」と言って良い。
それは、日本と同じ価値観を共有し得る伝統的保守路線への回帰でもある。
イラン戦争の目的は中東における中国の覇権拡大阻止
今後、もし米国が「米国第一主義」を口実にして中東全域から完全撤退すれば、その空白地帯に中国が入り込んで来る事は確実である。
こうした事は、1970年代後半にカーター米大統領がアフリカ諸国から米軍を撤収させた後、その空白地帯にソ連軍が瞬く間に進駐して占領した事の二の舞であり、同じ轍を踏む事になる。
今年2月28日に開始された米国によるイラン攻撃の真の目的は、中国の中東における覇権拡大を阻止する事にあった。
イラン戦争は、明らかに対中強硬派のルビオ国務長官の主導によって起こされたものである。
またこの事は、トランプ政権内においてMAGA派のヴァンス副大統領の力が失われた事をも示している。
イラン戦争は、単なるイランの「核開発」や「核保有」の問題ではなく、「対中国戦略」として捉える事が非常に重要である。
主としてイランの「核問題」にこだわってイランに戦争を仕掛けたのはイスラエルであって、米国の対イラン参戦理由はむしろ「対中国戦略」にあった。
イラン戦争で米国が目指しているのは、「対中封じ込め」である。
中国の習近平が推進してきた「一帯一路」戦略において、イランは極めて重要な存在であった。
古代のシルクロードにおいてペルシャが重要な地位を占めていたように、イランは地政学的にもアジアとヨーロッパとの中間地点に位置し、東西の物流の要衝であり、現代においては有数の原油産出国でもある。
中東での覇権を目指している中国にとって、イランは原油供給のみならず、紅海でフーシ派を使うなど、中東における米国の同盟諸国に圧力をかけてくれる存在として、不可欠のパートナーであった。
中国からすれば、イランは米国に中東での軍事負担をかけさせる存在である一方、中東における中国の地位向上と覇権拡大に貢献してきた国である。
また近年では、中国はイランを利用して湾岸諸国に働きかけ、中国が外交的な仲介役となり、影響力を強めようとしてきた。
3年前に北京で行われた「イラン・サウジ国交正常化協議」では、中国が仲介して合意に至っている。
このように中国は、イランを「橋頭堡」として中東全域における覇権の確立を画策しているのである。
また経済制裁を受けているイランにとっては、中国は大量の原油を買って外貨をもたらしてくれる貴重な存在である。
このように中国とイランは、共に米帝国主義に対抗する共闘関係にある。
中国は原則として他国との「同盟」を結ばない国であるが、イランとの関係は、事実上の同盟関係に近いものがある。
一方、「ルビオ路線」で伝統的保守主義に回帰した米国としては、中東における中国の覇権拡大を黙って見過ごすわけにはいかない。
今後もし米国が中東全域から撤退した場合、その後の空白地帯に中国が入り込んで来る事は、当然予想される展開である。
米国としては、イランへの攻撃によってイラン国内の軍事インフラを壊滅させる事で、中国の中東戦略の最大拠点を断ち切る事が絶対に必要であった。
もし米国による今回の対イラン作戦が成功し、イランに親米政権が成立すれば、中国は従順なパートナーであるイランを失うのみならず、中東における重要な橋頭堡を喪失する事になる。
しかも中国には、これまでイランから安く買い叩いてきた大量の原油が入って来なくなる。
中国は制裁下のイランからの格安な原油で、中国全体のエネルギー消費の13%を賄っていた。
もし国家全体のエネルギー消費の13%が失われたならば、それは国家を揺るがすレベルの事態である。
これまで中国は中東において影響力を高めてきたが、今回の米国によるイラン攻撃は、中国の中東における政治的な立ち位置を根底から大きく変える事になる。
イランから見れば、たとえ同盟関係ではないとしても、中国はいざという時には助けてくれない国である事が明白になる。
しかしながら中国としては、このタイミングで米国と事を構えるわけにはいかず、手をこまねいて見ている以外に無いであろう。
かくしてイランの中国に対する信頼感は根本から崩れ去る。
中国からすれば、これまで長年にわたって築いてきた中東における戦略的な基盤が、音を立てて崩れてゆくように見えるはずである。
今回、米国が中国に対して「米中首脳会談の延期」を通告したのは、中国にじっくりと考える時間を与える為でもあった。
米国としては、中国に中東における覇権拡大を断念させたいところである。
米国が中国寄りのイランを完全に無力化させた上で首脳会談に臨むならば、交渉の力関係は根本的に変わることになる。
こうした米国の戦争目的も踏まえた上で、我が国としては、出来るだけ早い戦争終結の為に、米国とイランとの調停役に徹するべきである。
イラン戦争の根本原因が中国の覇権問題であれば、それはやはり我が国にも関わる問題なのである。
我が国は、決して米国に追随するのではなく、イランとの独自ルートを通じて、イランにおける中国の影響力の排除をイラン側に確約させれば良い。
そうすれば米国はイランから速やかに手を引くであろう。
戦争を早期に終結させる方法はそれしか無い。
イラン戦争の長期化は、日本の国民生活をも圧迫することになる。
首脳会談でトランプ大統領に約束したとおり、高市首相は全力を挙げてイラン戦争の調停に当たるべきである。
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