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第三次世界大戦直前の中国の戦略
ロシアの属国化を画策する習近平
[2025.8.1]
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ウクライナ戦争中の2023年10月、北京を訪問したプーチンと会談した習近平 |
PHOTO(C)REUTERS |
ウクライナ戦争の長期化を望む中国
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、中国は陰に陽にロシアを支援し続けている。
表面上、中国とロシアは相互協力関係にある為、中露が「同盟国」であると思っている人は多いであろう。
しかしながら現在の中露関係は、1950年に締結された中ソ同盟(=中ソ友好同盟相互援助条約)とは全く異なり、いわゆる軍事政治同盟ではない。
事実として、現在の中国とロシアは、双方の防衛義務を定めた軍事同盟条約を結んではいない。
これは、中国側が「非同盟」の原則を重視し、建前の上では「第三国をターゲットにしない」との立場をとり続けている為でもある。
毛沢東時代以来、中国は他国との同盟関係を忌み嫌う傾向にある。
その最大の理由は、冷戦期の中ソ同盟の時代、常にソ連が上位の立場から中国に圧力を掛け、中国は従属的な立場でソ連に従わざるを得なかった、という苦々しい経験があった為である。
やがてスターリンの死後、中ソ関係は悪化し、毛沢東による「自力更生」路線への転換や、度重なる中ソ国境紛争を経て、中ソ同盟は消滅した。
その後、ソ連が崩壊してロシア共和国が成立し、中露関係は修復改善された。
だが中国は、「ロシアと同盟関係にある」と見られる事にかなりの抵抗感を抱いている。
2023年3月22日、国営通信社「新華網」は、「なぜ中国はロシアと同盟を結ばないのか」という記事を配信した。
その内容は、「非同盟は中国外交の核心的原則の一つ」である事、「中露の非同盟は条約として法的に確定されている」事、さらに「良き隣人関係である事が中露関係の初心であり、同盟関係では完全に平等になれない」という3つの理由から、「中国はロシアと同盟を結ばない」としている。
ここで最も本質的な理由が、3番目に挙げられた「同盟関係では平等になれない」という点である。
冷戦時代の中ソ同盟は、ソ連を盟主とした「主従関係」であった為、中国は苦渋を味わってきた。
また西側陣営の場合も、同盟諸国は皆、米国を盟主とする「主従関係」の立場であって、平等ではない事を中国当局はよく知っている。
このように中国が「非同盟」にこだわるのは、中国が従属的立場を嫌うからであるが、それ以上に三千年にわたる「中華思想」が大きく影響している。
中国人にとって世界の中心は「中華」であり、周辺の異民族は「夷狄」として文化的に劣った存在と見做される。
中華王朝と周辺諸国との関係は、中華皇帝が周辺国の君主に爵位を授け(=冊封)、君臣関係を結んで「中華を中心とした世界秩序」を形成する事が、中国人にとっては正しい世界観なのである。
もし今後、中国がロシアと同盟条約を結ぶ事があるとするならば、それは中国が「中華」の立場からロシアを格下の「朝貢国」として服属させる時である。
そして現在、習近平は間違いなくロシアを属国化させる事を画策している。
今やプーチンは、ウクライナの戦局で苦境に立たされている。
ロシアは弾薬や兵員すら自国内だけでは賄えず、「同盟」を結んだ北朝鮮に弾薬や兵員の補充を頼っている有り様である。
だが何よりもプーチンが恐れているのは、ウクライナ戦争の不始末を責められて失脚させられる事である。
プーチンにとって真の敵は、ウクライナでも西側諸国でもなく、ロシア国内に存在する。
そしてプーチンが自らの身の安全を保つ為には、ひたすらウクライナの首都「キエフ」の陥落を目指して戦争を継続する以外に無いのである。
そうした困窮状態の中、プーチンは中国からの軍事支援を喉から手が出るほど欲しがっている。
因みに中国は、「ロシアに武器弾薬を提供すれば重大な結果を招く」と、米国から強く警告されている為、表立っての対露支援は表明していない。
しかしながら、中国が第三国経由などの手段を用いて、ロシアに向けて軍事分野を含む物資供給を続けている事は間違いない。
中国としては、プーチンを支援してウクライナ戦争を出来るだけ長引かせた方が、中国の国益に適うからである。
その第一の理由は、かりにロシアとウクライナとの停戦が実現してしまえば、中国はその直後から米国主導による「対中国包囲網」に晒される事になる。
またロシアが米国の和平案を受け容れる事は、ロシアが米国側の陣営に付く事を意味する。
その場合、中国は完全に孤立状態になり全世界から包囲されることになる。
従って習近平としては、たとえプーチンを騙してでも、ロシアとウクライナとの戦争を泥沼状態のまま継続させなければならないのである。
現在、米国のトランプが提案する停戦交渉をプーチンが先送りし続けている背景には、中国の意向が強く働いていると見られる。
これは中国による「超限戦」の一環でもある。
7月4日付の米CNNにおいて、中国の王毅外相はEUのカヤ・カッラス外務・安全保障政策上級代表に対し、「ロシアがウクライナ戦争に敗北すれば、米国が中国に全面的な注意を向ける可能性があるため、中国はロシアの敗北を受け入れられない」と表明した。
「中立」という表向きの立場とは大違いであるが、これこそが中国当局の偽らざる本音に他ならない。
ロシアを属国化する中国の戦略
そして中国がロシアを支援している第二の理由は、戦争を長引かせる事によってロシアの国力を弱め、そのうちロシアを中国の「属国」にする為である。
ロシアとウクライナの戦争がさらに長期化し泥沼化すれば、ロシアの財政や経済は確実に破綻し、国力は衰退する。
そして満身創痍のロシアを「生かさず殺さず」中国が支援し続けることで、ロシアに恩を売るのである。
中国にとっては、ロシアが疲弊し弱体化してゆく事は、今後ロシアを「属国」にする上で非常に好都合である。
逆に、ロシアに十分余力が残っている内に停戦などされて和平が実現したならば、ロシアを中国に服属させる計画が頓挫してしまう。
習近平としては、ロシアとウクライナとの「停戦」だけは絶対に阻止したい。そのために中国は、プーチンとロシアを援助し続けているのである。
なお長期的に見れば、中国の支援無くして、ロシアは国家として成り立たない。
ウクライナ侵攻を契機に、ロシアは西側陣営からの経済制裁を受け、ロシア中央銀行の外貨準備が凍結されて、西側諸国とは貿易が出来ない状態にある。
しかもロシアの国内産業に欠かせない労働力は、その多くが戦地に駆り出されて空洞化している。
そればかりか、年間百万人単位でロシアの人口が国外に流出し続けている始末である。
たとえ局地的に戦果が挙げられたとしても、ロシアは国家としてすでに破綻しているのである。
しかしながらプーチンには、戦争を今やめるわけにはいかない事情がある。
ウクライナ戦争において、これまでに30万人ものロシア人兵士の生命を犠牲にしてきた以上、米国の仲裁によって中途半端な妥協をする事は、軍部が絶対に許さないであろう。
ロシア軍将校によるプーチン暗殺は、いつ発生してもおかしくない状態にある。
一方、ロシアの一般国民の感情としては「一刻も早く戦争が終わってほしい」という気持ちが強い。
それと同時に、戦争を始めたプーチンについては「死を以てその罪を贖うべき」と、ロシア国民の多くが思っているはずである。
いずれにせよプーチンにとって、中途半端な停戦は自らの死を意味する。
今後もプーチンは決してウクライナ戦争をやめる事は無いであろう。
そしてその事を最も喜んでいるのが、中国の習近平である。
ウクライナ戦争が中国にとって有益であったことは疑いようがない。
ウクライナ侵攻直後、西側陣営がロシア中央銀行の外貨準備を凍結した為、ロシアの通貨ルーブルは国際的に価値を失った。
紙切れ通貨ルーブルは、ロシア国内では何とか流通しているが、国際的には紙屑同然になった。
ロシアの原油や天然ガスの代金はルーブル決済が原則であるが、もし中国側が「人民元での支払いを認めろ」と要求した場合、ロシア側にそれを断る術は無い。
いずれロシアの経済システムは「人民元化」してゆく流れになるであろう。
中国最大の弱点はエネルギーであるが、中国はウクライナ戦争のおかげで、割安になったロシア産の天然ガスと石油が大量に手に入るようになった。
一方ロシアは、中国に売った天然ガスや石油の代金を戦費に充当できる。
開戦時の2022年だけでも、ロシアと中国との貿易は30%増加し、中国の対露貿易(輸出と輸入の合計)は過去最高の年間1900億ドルに達した。
2023年にはさらに30%増加し、年間2450億ドルに膨らんだ。
このようにロシアは、西側との貿易が出来なくなった分、対中貿易に依存せざるを得なくなったのである。
西側世界から切り離されたロシアは、今後中国の支援を受けながら、国家として徐々に衰退してゆくことになる。
また欧米の大学は、ロシアのウクライナ侵攻以後、ロシアからの留学生の受け入れを拒否するようになった。
その為、ロシアから海外へ留学する学生は、留学先として中国の大学を選ばざるを得ない状況にある。
やがてロシアの国家エリートは、中国の一流大学で学んだ人材が大半を占めるようになるであろう。
かくして中国は、将来のロシアの官僚組織をも支配することになるのである。
またここ数年、ロシアでは「家族の中国化」が進んでいる。中国人男性と結婚するロシア人女性が激増しているのである。
その背景には、かつて「一人っ子政策」を推進した中国には適齢期の独身男性が余っている一方、ロシアでは男性の多くが兵隊に取られて、女性が余っているという事情がある。
だがそれ以上に、「我が家にとって頼りになるのは低収入のロシア人ではなく、高収入の中国人だ」と割り切っているロシア家庭が多いということでもある。
5月25日付の英紙「タイムズ」は、「中国人男性は妻探しにロシアへ向かう」と題し、「高額な持参金を要求する中国人女性との結婚は経済的に厳しいため、中国人男性はスラブ系の良妻賢母を探している」と報じている。
いずれにせよ、中国男性とロシア女性との結婚は「打算に基づく結婚」である事が確かなようである。
今や中国とロシアとの力関係は、かつてのソ連時代から完全に逆転した。
ウクライナ侵攻後、中国がロシアとの連携強化に動き、苦境に立つプーチンを支援する事になったのは、習近平が「ロシアを中国の属国にする絶好のチャンス」と判断したからである。
習近平の計画は、先ずはプーチン体制下で弱体化していくロシアを支援し、次第に政治的・経済的・軍事的に中国の影響下に収めてゆき、やがてロシアを冊封体制下に組み入れた人類史上最大の「大中華帝国」を成立させる事である。
これにより習近平は、「毛沢東超え」のみならず「歴代皇帝超え」をも達成出来る事になる。
もともと「中華思想」の世界観では、北方の蛮族は「北狄」と呼ばれ、中華皇帝に朝貢するべき未開の野蛮人に過ぎない。
中華の冊封体制に蛮族のロシアが組み込まれる事は、中国人の感覚からすれば当然の事なのである。
習近平の野望は、単に「台湾併合」に留まらない。
習近平の最終目標は、中華皇帝としてロシアを含むユーラシア全土に君臨することにある。
2013年に開始された「一帯一路」政策は、その第一歩に過ぎなかったのである。
ただしそうした青写真を実現する為には、今後ロシアにはウクライナ戦争に負けることなく、プーチンには生き残ってもらう必要がある。
習近平にとって、ロシアが弱体化する事は望ましい事ではあるが、プーチンが失脚したり、ロシアが戦争に敗北して、ロシアに西側寄りの民主政権や親米政権が成立する事態だけは回避しなくてはならない。
そのために中国は、それなりにしっかりとロシアを支援しているのである。
このように習近平の対ロシア方針は、あくまで「生かさず殺さず」戦略である。
そもそも「毛沢東の後継者」を自認する習近平が、ロシアを本気で助ける事など絶対にあり得ないのである。
台湾有事から第三次世界大戦へ
習近平がロシアを支援してウクライナ戦争の長期化を画策する第三の理由は、欧州の混乱に乗じて台湾への武力侵攻を決行する為である。
現在NATO首脳部は、中国の「台湾侵攻」に伴って、ロシアが西側を攪乱する目的で欧州諸国へ侵攻する事を懸念している。
パトリック・サンダース前英陸軍参謀総長は、6月5日付の英紙「タイムズ」で、「ロシアと中国がイランと北朝鮮の支援を受けながら二正面で協力し、戦争を引き起こす恐れがある」と警戒を呼びかけている。
「中国による台湾侵攻のようなインド太平洋における大規模な対立から始まり、欧州の駐留米軍はインド太平洋に振り向けられる。日和見主義的なプーチンはバルト諸国やノルウェー領スヴァールバル諸島のような極北の地域などNATO域内に侵攻する恐れがある」と、サンダース前英陸軍参謀総長は述べている。
またNATOのマルク・ルッテ事務総長は、7月5日付の米紙「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューで、「もし中国の習近平国家主席が台湾を攻撃するなら、まずジュニアパートナーのウラジーミル・プーチン露大統領に電話をかけるはずだ」と語った。
「習近平は、『これから台湾に侵攻するので、ロシア軍はNATO加盟国を攻撃し、欧州を釘付けにしてほしい』とプーチンに求めるだろう。これを抑止するには、NATO全体が非常に強力になりロシアを思い留まらせる事と、トランプ米大統領が推進するインド太平洋地域との協力が必要だ」と、マルク・ルッテ事務総長は述べた。
習近平がプーチンに電話してヨーロッパ侵攻を要請するなど、荒唐無稽な話のように思われるだろうが、これは長年にわたりNATO軍を指揮し軍事の最高機密に接してきた人物の見解である。単なる都市伝説の類ではない。
このようにNATO首脳部の間では、第三次世界大戦は中国による「台湾侵攻」から始まる可能性が高いと見られている。
そしてNATOや米軍関係者の間で、台湾有事が最も有力視されている時期が「2027年」である。
その年は米国の中間選挙の翌年であり、トランプ政権がレームダック化している時期でもある。
一方、習近平にとっては、予定している台湾侵攻の際には、世界における主戦場が欧州でなければ困るのである。
もし欧州全土が平和でウクライナが平穏無事な状態であれば、「台湾侵攻」など到底不可能だからである。
従って、習近平からプーチンに対し、ウクライナとの停戦交渉には決して応じないように圧力が掛けられている事は間違いない。
今や超大国である中国の習近平の方が、破綻国家ロシアのプーチンよりも遥かに立場が上なのである。
2027年に習近平が「台湾侵攻」を決行する予定であれば、現行のウクライナ戦争はこのまま2年以上は終わることがないと見てよい。
プーチンに裏切られたトランプ
ウクライナ戦争をめぐる中露のこうした駆け引きの中、米国のトランプ大統領は、当初のシナリオが狂わされて怒り心頭である。
トランプとしては、ロシアのプーチンにとって有利な形で停戦させようとしていたのであるが、肝心のプーチン自身が土壇場で態度を翻し、停戦には応じない意思を表示し始めたのである。
これでは、「ロシアを米国側に取り込んで対中国包囲網を完成させる」という米国の世界戦略そのものが破綻することになる。
「プーチンに裏切られた」と、トランプが激怒している事は間違いない。
昨年の米大統領選の時期から、トランプは「ウクライナ戦争は1日で終わらせてみせる」などと豪語していた。
その背景には、「自分はプーチンから信頼されている」との自負がトランプにあり、ロシアにとって有利な条件で停戦を持ちかければ、当然プーチンは応じてくるだろう、との見込みがあったはずである。
米国による度重なる停戦の呼び掛けにも関わらず、ロシア軍は7月9日と10日の両日、1128機のドローンと31発のミサイルによる最大規模の攻撃を行い、多くのウクライナ市民を殺害した。
7月14日、トランプはホワイトハウスでNATOのマルク・ルッテ事務総長と会談し、報道陣に対してロシアへの怒りを表明した。
「ウラジーミル・プーチン露大統領には失望している。2カ月前には合意できると思ったのに、どうやらそうなっていない」
「これまで4回ほど合意に至るかと思ったが、今もなお交渉中だ。ただの話ばかりで、その後にキーウにミサイルが撃ち込まれ、60人が殺される。プーチンと電話を終えるたびに、いい会話だった、と思うのだが、その夜にミサイルが撃ち込まれるのだ」
「プーチンは多くの人々を欺いてきた。ビル・クリントンもジョージ・ブッシュもバラク・オバマもジョー・バイデンも騙された。しかし私は違う」と、トランプは語る。
停戦合意に応じないプーチンに対して、トランプの我慢も限界に来たようで、「50日以内に合意に至らなければ、ウクライナにパトリオット・ミサイルを供与し、ロシアの貿易相手国には100%の関税を課す」事を宣言した。
これは、従来の対露宥和政策から180度転換する宣言であった。
7月14日、米国はNATOを通じてウクライナに必要な装備を供給することを決定した。
ただし「米国は欧州に武器を送り、彼等がその費用を負担する。米国が金を支払うことはない」と、トランプは米国の国民向けに説明した。
同日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、こうした米国の支援に対して感謝の意を表明した。
ゼレンスキーによると、6月だけでロシア軍はウクライナに向けて330発以上のミサイル(内80発は弾道ミサイル)、5000機以上の攻撃用ドローン、5000発の航空爆弾を発射した、という。
NATO首脳会議は、2035年までに加盟国が中核国防費にGDP比の3.5%、国防・安全保障関連投資に1.5%を充てることで合意、EU全体で国防支出を最大8000億ユーロ(約140兆円)に増やす事を決定した。
そしてこの資金が、欧州による米国製装備調達とウクライナ支援に向けられることになる。
NATO首脳部も、ウクライナ戦争が今後長期化するものと判断したのである。
NATOのマルク・ルッテ事務総長が提案したスワップ方式では、欧州のNATO加盟国が先にウクライナにミサイルを送り、その後、米国が欧州のNATO加盟国に送るミサイルと置き換えられる。
つまり米国製兵器は、米国から直接ウクライナに供与されるのではなく、米国から欧州のNATO加盟国に売却され、欧州のNATO加盟国からウクライナに供与されるのである。
従って、それら米国製兵器の代金は、全て欧州のNATO加盟国が米国に支払うことになる。
「米国は欧州に武器を送り、彼等がその費用を負担する。米国が金を支払うことはない」というトランプの説明はこうした意味である。
かくしてウクライナは、米国製の防空システム・パトリオット17基を速やかに入手出来ることになった。
因みに英シンクタンク・王立国際問題研究所上級コンサルティング研究員キーア・ジャイルズ氏は、「真の問題は、追加制裁が発動される前にプーチンにさらに50日間の戦争遂行期間を与えたことにある。確実なのは、今後49日間はロシアがウクライナの罪なき市民に死と苦しみをもたらす努力を最大限に続けられるということだ。ロシアに独自の代替案を考え、外交的策略により再びワシントンを出し抜く時間を与えた」と懸念を示している。
だが実際には、もともとプーチンに停戦の意思は無く、あくまで「50日」の猶予期間は、トランプ側にとって必要な期間なのである。
成熟した民主主義に向かう過渡期
現在の日本政府は、ウクライナ戦争や欧州情勢に対して、まるで他人事であるかのように振舞っている。
だが欧州の問題について無関心である事は、日本の将来にとって決して好ましい事とは言えない。
これまで何度も述べてきたように、日米同盟は今後、破棄はされなくとも確実に「空文化」する。
戦後80年間、米国の庇護の下に安住し続け、自らの足で歩いた経験の無い日本国が、いきなり米国に突き放され、荒野に放り出された状態にある。
今や我が国は、米国の膝元から離れ、全ての事を自分自身で判断し自らの責任で行動しなければならなくなった。
こうした現実を直視し、我が国が進むべき方向性を明らかにする事こそが、日本の政治家の責任である。
我が国にとって国家百年の計は、「欧州との同盟」にあると言っても過言ではない。
欧州諸国と日本とは、ほぼ同等の国力を有し、同一の価値観を共有している。
また欧州諸国も日本も「ミドル・パワー」であり、たとえ「同盟」を結んだとしても、「主従関係」になる懸念はほとんど無い。
しかしながら現在の日本政府には、米国以外の国との同盟を検討する意思さえ微塵も無い。
何事をするにも官僚の言いなりになって、自らの頭で物事を考えない政治家が国家のリーダーになれば、世界において存在感の無い国家になるだけである。
その事によって失われる国益は測り知れない。
今年1月の国会答弁において、「当選したからといって公約を実行するとはならない」「これまでも自民党は公約を守ったことはない」などと発言するような人物が首相を務めている事こそ、この国の悲劇であろう。
7月20日に実施された参院選で、与党は大惨敗した。当然の結末である。
だが、野党の既成政党も大して伸びなかった。
与野党を問わず既存の政党は、すでに国民からの信頼を失っているのである。
結果的には、参政党のような新興政党が大きく議席数を伸ばした。
この現象は、既成政党に対する不信感を抱く「無党派層」がそれだけ多いという事実を示している。
ただし一昔前であれば、そうした無党派層の大半は投票を棄権していた。
だが近年ではネットの影響で、無党派層も積極的に政治に対して関与の度合を深めるようになった。
昨年の都知事選における「石丸旋風」や兵庫県知事選での「立花現象」に見られるように、SNSやユーチューブの動画に影響された無党派層が、今や選挙結果を左右するほどの一大勢力になりつつある。
そして今回の参院選では、「参政党ブーム」が無党派層の多くを取り込んだ。
世界の先進諸国は、いずれも移民問題を抱えており、大量の移民に仕事を奪われる低所得層が、ある程度まとまった人口比率を占めている。
移民に仕事を取られた底辺の人々にとっては「生きるか死ぬか」の選択でもある為、「移民排斥運動」は熱狂的なムーブメントへと発展し易い。
先進国においては、「自国民ファースト」をスローガンに「移民排斥」を唱えれば、必ず一定の熱烈な支持者を獲得出来るという構造が存在する。
こうした社会現象は、欧米諸国において顕著に表れているが、日本も例外ではない。
今回の参院選では、「参政党」がそのポジションを取ることによって人気を集めた。
「参政党ブーム」の発信源は、やはりネット上のSNSやユーチューブの動画であった。
こうした「参政党」や「石丸」や「立花」の現象に共通しているのは、いずれもポピュリズムに特化した運動であり、大衆迎合主義に徹することによって成功している点である。
ただしそれらの社会現象は、あくまで一過性のブームであって、いずれブームは収束する。
昨年の「石丸旋風」が今回の選挙で終焉したように、「参政党ブーム」もやがては下火になるだろう。
一時的な熱狂は必ず冷めるものである。
次回の選挙では、また別の新しいポピュリズム政党がネット上に登場して話題になるはずである。
そうしたポピュリズムによる政治は、古代ギリシャにおいては「衆愚政治」と呼ばれた。
だが民衆の意識や自覚が高まれば、「衆愚政治」は「民主政治」へと移行する。
この国においても、ポピュリズムではなく「国家百年の計」を考える本物の政党が、将来必ず出現するであろう。
そうした過程を経て、我が国は真の民主主義国家へと成長し得るのである。
現在の国政選挙は、ポピュリズムが支配する「衆愚政治」に他ならない。
だがそれは、成熟した「民主主義」へと向かう上での過渡期であると見るべきであろう。
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