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今、日本が為すべき事は何か

「戦略的自立」に基づく独自外交への転換

[2025.4.1]



1924年11月28日、「大アジア主義講演」をする孫文 (於:神戸女学校講堂)


米国がNATOから脱退する日



 2025年の人類は、大戦後約80年にわたり当然のように信じられてきた世界とは全く異なる世界へと足を踏み入れつつある。

 トランプ政権の米国は、「不当な抑圧者に抵抗している自由な民族や少数派を支援する」と宣言した1947年のトルーマン・ドクトリンを、事実上、完全に放棄した。

 今や米国は、第二次大戦後の世界における「自由世界の守護者」としての役割から降りて、自国の利益のみを追求する大国として歩み出す事になった。

 従って今後の米国は、あくまで中国やロシアと同類の「帝国主義列強」の一つに過ぎないと認識する必要がある。

 米国のトランプ大統領が行った1月20日の就任演説や3月5日の施政方針演説、さらに2月28日のウクライナのゼレンスキー大統領との口論等に見られるように、トランプ大統領の言動は、ある種の異常さを孕んでいる。

 国家主権や国際慣習を蹂躙し、メキシコ湾を「アメリカ湾」へと改名したり、「グリーンランドを購入する」「パナマ運河を奪還する」「ガザ地区を所有する」等々の強権的かつ一方的な宣言をする米国の所業は、帝国主義以外の何物でもない。

 もしそうした「主権侵害」が国際社会で罷り通ることになれば、国際法の意義が失われ、「力がある国は何をやっても良い」という「弱肉強食」の無秩序な世界となる。

 英国の「フィナンシャル・タイムズ紙」は、3月4日の社説で「米国は今や西側の敵だ」と題して、「独裁国家がますます自信を付けているだけでなく、米国もそちら側に付こうとしている。それは2月半ばの2週間で得られた教訓である」と論じた。

 2月半ば、米国のトランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領のことを「独裁者」と呼び、「ウクライナ戦争の原因を作ったのはゼレンスキーである」と断じた事などによって、欧州諸国と米国とはすでに異なる陣営である事が明らかになった。

 そして2月28日のホワイトハウスにおけるトランプ大統領とゼレンスキー大統領との激しい口論の直後、米国はウクライナに対する軍事援助を停止した。

 さらに欧州にとって戦後最大級の深刻な問題が、米国のNATO脱退問題である。

 トランプ政権の米国が、近い内にNATOから離脱する可能性が濃厚になってきた。

 米共和党には、NATOからの脱退を真剣に主張する有力政治家達が少なくない。

 昨年6月には、46人の共和党下院議員がNATOの予算を削減する修正案に賛成票を投じた。

 共和党のマリン上院議員は、「NATOが米国の最善の利益に適わなくなっているのであれば、我々は物事を再検討すべきだ」と発言している。

 バンス副大統領は2月、ミュンヘン安全保障会議でのスピーチで、NATO軽視の姿勢をあらわにした。

 また政府効率化省のイーロン・マスクも、米国はNATOから離脱すべきだと主張している。

 そうした中、米国のトランプ政権が、NATOの欧州連合軍最高司令官ポストを手放すことを検討している事が明らかになった。

 欧州連合軍最高司令官は、第二次大戦でノルマンディー上陸作戦を指揮し、後に米大統領となったアイゼンハワーが就任して以降、約75年にわたり、米軍の大将級の指揮官が務めてきたNATOの重要ポストである。

 米国がNATOのこの重要ポストを放棄するならば、第二次大戦後の欧州の安全保障と和平の枠組みに重大な変化が生じる事となる。

 このようなトランプ政権のロシアへの宥和政策とウクライナやNATOに対する冷淡な態度により、現在の欧州では、米国との同盟関係に対する疑念が急速に高まっている。

 そのため欧州諸国では、以前であればとても考えられなかったようなリスクまで調査するようになった。

 例えば、欧州で導入されている「F35戦闘機」に、米国は遠隔操作で機能を停止させられる「キル・スイッチ」を付けているのではないかとの疑惑や、英国の核兵器が作動しないように遠隔操作されているのではないかといった不安まで生じているという。

 因みに1949年にNATOが設立された理由については、「ドイツを鎮圧し、米国を中に留め、ロシアを締め出すため」であると、昔から欧州内部では言われてきた。

 しかしながら米国がNATOから離脱するならば、そうした均衡は崩れ去り、欧州全体がロシアの脅威に真正面から晒されることになる。

 その場合は、それ以降の欧州各国において、極右政党が支持を集め、核武装を含めた軍事大国化の動きが加速してゆく事は避けられないであろう。

 1920年代の欧州で、イタリアのファシスト党やドイツのナチス党が急速に台頭し得た最大の要因は、ソビエト・ロシアの脅威に対する西欧の人々の恐怖心であった事を忘れてはならない。



核拡散に歯止めがかからない世界



 米国がNATOから離脱する事態に備えて、現在欧州では、米国の関与なしで欧州をどのように守るか、米国抜きでロシアにいかに対抗すべきか、等々の諸問題が議論され始めている。

 さらに、これまで米国に大きく依存してきた米国の「核の傘」「核抑止力」に関しても根本的な再検討が必要となっている。

 欧州の核保有国は英国とフランスの2国であるが、米国に対する不信から、フランスのマクロン大統領は、フランスの核抑止力を通じて欧州大陸の同盟国を守る戦略を提唱している。

 3月5日、マクロン大統領は「ロシアは欧州全体にとって脅威である」とし「フランスの核の傘を欧州の同盟諸国に拡大することについて議論する用意がある」と述べた。

 またマクロン大統領は、長年にわたり「戦略的自立」の必要性を訴え、欧州独自の防衛軍の創設を唱えている。

 一方ドイツでは、旧連合国によって長年にわたり抑えつけられてきた「核武装論」が、ここに来て急浮上している。

 ドイツの次期新首相に就任することが有力視されている保守派のメルツ氏は、「今後、トランプ大統領がNATOの集団的防衛義務を守らない可能性に備えなければならない。欧州が最大限の努力をし、少なくとも欧州大陸を自分たちだけで守れるようにすることが極めて重要だ」と述べ、さらに「欧州独自の核抑止力を欧州全体に広げる議論を本格的に始めるべきだと考えている」と、独紙フランクフルター・アルゲマイネ(3月9日付)とのインタビューで語った。

 このように近い将来において、米国が正式にNATOから脱退した場合には、その後の欧州が独自の核戦力の増強に向かう事は避けられない。

 欧州は、米国抜きで核大国のロシアに正面から対峙しなければならない為である。

 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を招いてしまった最大の要因が、ウクライナの「非核化」にあったと欧州の人々は理解している。

 もしウクライナが核武装していれば、ロシアから侵攻される事は無かったであろう。

 因みに冷戦中の1980年代には、東側陣営と接する最前線に位置する西ドイツ国内に、米国から供与された中距離核ミサイルが多数配備されていた。

 英国とフランスはすでに核保有国であるが、核を含む全ての米国の戦力が欧州全域から撤退した場合、ロシアとの国境が近い旧東欧圏に、英・仏が供与する核兵器が配備される可能性が高い。

 さらにロシアの脅威を考慮するならば、欧州諸国は新たに徴兵制の導入を検討することもあり得る。

 これは決して極論ではない。事実、スウェーデンやフィンランドなどでは、現在も兵役が義務付けられている。

 このように、米国のNATO脱退後の欧州諸国の外交・防衛政策は、一転して強硬なものとならざるを得ず、必然的に極右政権が成立しやすい土壌が出来上がる。

 そればかりか今後の欧州は、ロシアと米国との緊密な関係が深まるにつれて、ロシアのみならず米国をも「仮想敵国」と見做すようになる可能性さえある。

 かりに米国が欧州防衛から完全に手を引いたとしても、欧州諸国は、今後ともウクライナを強力に支援し続けるであろう。世界最大の穀倉地帯であり鉱物資源も豊富なウクライナが再びロシアの傘下に入ってしまえば、欧州にとっては軍事的にも経済的にも大きな痛手となる為である。

 なお、米国に対して強い疑念を抱いているのは、欧州諸国だけではない。

 極東の韓国や台湾では、トランプ政権の誕生に伴って「疑米論」が台頭している。

 トランプが2期目の大統領選挙に当選した直後の2024年11月、台湾で行われた世論調査では、「中国の武力侵攻時に米国が台湾の為に軍を派遣してくれるとは思わない」と答えた人が、57パーセントもいたという。

 また米大統領選直後に韓国で実施された世論調査では、韓国が核武装する事に賛成した人は66パーセントに上った。しかも保守派のみならず、革新派でも5割以上が核武装に賛成しているという。

 韓国のシンクタンクの世宗研究所は、韓国が10年以内に核武装する事は確実であると予測している。

 米国第一主義のトランプ大統領は、かねてからの公約であった「在韓米軍の撤退」を、2期目には必ず実現させようとしている。

 このような事情も相俟って、今や韓国国内では独自の核武装論がメジャーになりつつある。

 そうした動向を踏まえて、米政府は3月15日、韓国を国家安全保障や核不拡散などの観点から注意が必要とされる「敏感国」に指定した。なお米国当局が指定した「敏感国」には、韓国の他、中国、台湾、イスラエル、ロシア、イラン、北朝鮮が含まれている。

 つまりホワイトハウスでは、韓国はすでに「準敵国」の扱いなのである。

 米政府によるこうした措置を受けて、韓国では「朝鮮半島有事の際に、米国は韓国を守ってくれないのではないか」との疑念が高まっている。

 韓国国内で「疑米論」が台頭している中、戒厳令騒動で弾劾にかけられようとしている尹大統領が急速に支持率を回復し、今や国民の半数以上が尹大統領を支持している事は、決して無関係な現象ではない。かつて朝鮮戦争を経験してきた韓国国民は、現在が真に国家存亡の危機的事態にある事を実感しているのである。

 このように、トランプ政権の同盟国軽視の外交政策は、米国の核抑止力への信頼を喪失させ、同盟国を自前の核戦力保有へと走らせ、結果として核戦争の危機を拡大させる事になる。

 米国の軍事的抑止力に対する疑念が高まる中、中国やロシアのような核軍事大国の脅威に晒されている国々が、自前の核武装によって抑止力を補おうとする事は必然的結果であり、いずれも米国自らが撒いた種なのである。



日本と欧州との新同盟が世界において果たすべき役割



 現在の欧州では、かつてフランス大統領であったシャルル・ド・ゴールが再評価されている。

 ド・ゴール大統領は、「確かに米国人はロシア人よりも我々にとって友人である。しかし米国にも国益があり、いつかそれが我々の国益と衝突する日が来るだろう」と述べていた。

 この警告は、現在の米国と欧州との確執を予見したものとして注目されている。

 そして「米国はいずれ敵になる」との思想に基づき、ド・ゴール大統領は1960年代に「戦略的自立」政策を打ち出した。

 これが所謂ド・ゴール主義であり、「米国の言いなりにならず、フランスは主権国家として独自の核抑止力を持つべきだ」という政策をもたらし、フランスは核開発を推進した。

 そうしたド・ゴール主義の精神は、今日のマクロン大統領にも継承されている。

 一方、日本は戦後一貫して安全保障分野で米国に依存し、日米同盟を国防政策の基軸に据えてきた。

 1980年当時、政治学者の清水幾太郎氏は、日米安保条約にのみ依存している日本の状態を「半国家」と定義した。

 2025年においても実情は当時と大差が無く、日本は「半国家」のままである。

 長年にわたり、日本の政治家と官僚は、国家主権や政策決定権を全て米国に委ねたまま流されてきた。

 しかしながら、米国が自国第一主義へと方向転換している現在こそ、我が国にとっては対米自立を実現する絶好の機会であると見るべきであろう。

 この好機に我が国は、過去80年間にわたる対米従属体制から脱し、「戦略的自立」の原則に則った国家像を描きながら、独自の国家戦略を策定するべきである。

 そもそもトランプ外交には「ディール」の概念しか無く、「自由主義」や「民主主義」といった形而上的価値観は完全に排除されている。

 従って、日米同盟が自由や民主主義の共通の価値観で結ばれているという従来の理念は、今後の対米関係では一切通用しない事を知るべきである。

 またマッキンリー時代のような「小さな政府」を目指しているトランプ政権は、在日米軍の強化予算を停止した。

 少なくともトランプ政権下において、尖閣諸島の防衛の為に米軍が派兵される事は期待出来ない。

 のみならず、米国の「核の傘」「核抑止力」も、今後は機能しないと考えた方が賢明であろう。

「日米安保条約を破棄はしないが履行もしない」というのが、トランプ政権の対日方針であると見てよい。

 言い換えれば、トランプ政権によって日米安保条約は1952年の締結以来、初めて「空文化」の危機に晒されているのである。

 そうした中、我が国は何を為すべきか。

 現行の日米同盟を破棄する必要はないが、日米同盟を温存した上で、我が国は新たに欧州諸国との本格的な同盟を構築するべく、対外戦略を組み換える必要がある。

 現在、日本にとっての「同盟国」は、唯一米国のみである。韓国でさえ厳密には日本の同盟国ではない。

 また欧州のNATO加盟国と日本との関係は、あくまで同盟国である米国を介しての間接的同盟関係であって、単なる友好国に過ぎないのである。

 これまでは、米国が西側諸国とそれぞれの同盟を結んでいたおかげで、日本は米国との同盟の上に安住していれば、自動的に他の西側諸国とも友好関係を保てたのである。

 しかしながら、すでに世界は「弱肉強食」「優勝劣敗」の帝国主義の時代へと移行している。

 今後の我が国は、米国を介さない形で、同じ理念や価値観を共有する欧州諸国との間に、直接的な同盟を締結する事が必要となる。

 日本の国防上、米国が最早、当てに出来ないだけではない。それ以上に、帝国主義の米国とは理念も価値観も相容れない為である。

 デンマーク領グリーンランドやパナマを一方的に米国の管轄下に置くなどというトランプ大統領の宣言は、他国の国家主権を蔑ろにし、超大国の権力を振りかざした暴力的威圧に他ならない。

 独立した主権国家である以上、例えば人口14億人の中国と人口1万人のツバルとを並べた場合であっても、国際社会においては対等の立場で尊重されるべきなのである。これが本来あるべき「国家主権」概念である。

 世界の自由主義の秩序を維持するには、今や帝国主義国家となり果てた米国・中国・ロシアを除外した形で、日本とEU、英国、カナダ、オーストラリア等の自由主義国による新たな同盟の枠組みが求められる。

 とりわけ日本とEUおよび英国との同盟は重要である。

 そのような日本と欧州との新同盟が必要な第一の理由は、米国・ロシア・中国等の帝国主義諸国とは一線を画して、「自由・民主主義・人権」といった共通の理念や価値観に基づいた独自外交を貫く為である。

 そして日本と欧州との新同盟が必要な第二の理由は、今後、欧州諸国が中国に接近したり、中国と同盟関係になる事態を阻止する為である。

 米国と決別した後の欧州諸国は、米国を除外した形で軍事同盟を再編する事になるだろうが、その場合、ロシアへの対抗上、欧州諸国が中国に接近する可能性が高い。

 今後、新たに成立するであろう米露同盟が、対中包囲網を形成する場合、米露と対立関係にある欧州諸国が、中国との友好関係や同盟関係を図る事は十分にあり得る事である。「敵の敵は味方」なのである。

 ロシアとは違って、中国は地政学上、欧州諸国にとってはそれほど脅威にならない国である。

 欧州の場合、中国から地理的に侵略を受ける不安が無い一方で、経済面や軍事面で協力関係を結べば互いに利益を得られるというメリットがある。

 欧州諸国も、最終的には人権問題やイデオロギーなどよりは、自国の国益を優先させる可能性が十分にある。

 その事は、欧州諸国も「帝国主義化」してしまう事を意味するが、その結果として「米国・ロシア」 VS 「中国・欧州」という図式で世界大戦へと発展するならば、世界は破滅に向かって一気に突き進む事になる。

 そのような事態は断じて阻止しなければならない。

 ある意味では、米国のNATO脱退によって最も利益を得るのは中国である。米国がNATOから脱退した場合、中国にとっては欧州諸国を味方に取り込む上で絶好のチャンス到来となる為である。

 中国の工作員と見られるイーロン・マスクが、トランプの側近として米国のNATO脱退を最も積極的に主張している急先鋒であるという事実を考慮するならば、現在の国際情勢は非常に危険な状態にあると言えよう。

 そこで日本としては、経済・民生・安全保障等の諸分野において、欧州諸国との協力関係を深めてゆく事と並行して、「自由・民主主義・人権」といった共通の理念や価値観の実現を、中国民主化やチベットやウイグルを支援する方向で、欧州諸国と協力しながら積極的に推進してゆく事が必要である。

 さらに日本と欧州との新同盟が必要な第三の理由は、世界における「自由世界の守護者」あるいは「世界の警察官」としての役割を、今後、米国に代わって果たす為である。

 他国の国家主権を蹂躙する無法国家によるルール違反の所業に対しては、たとえ相手が何者であろうとも、断固たる制裁を実行し、原状回復をしなければならない。また、不当な抑圧者に抵抗している自由な民族や少数派に対して支援をする存在が、この世界には絶対に必要である。

 国家主権が堂々と侵害され、国際法が平然と破られる現在の世界であるからこそ、誰かがそうした役割を担わなければならないのである。

 また世界中の「声なき声」が、「自由世界の守護者」「世界の警察官」の復活を望んでいる。

 米国がその役割を放棄するのであれば、日本と欧州との新同盟が代わりにそれを担うべきであり、それが出来るような国々は他に存在しない。

 これは決して国益の為ではない。もし自国の国益だけを追求する事が正しい政治だと言うのであれば、トランプのやり方が最も正しいことになる。

 だが現代世界における政治が本当に目指すべき事は、一国の国益追求よりも、世界全体の持続可能な発展である。

 なぜなら、世界全体が持続可能な形で発展しない限り、個々の国々の国益も損なわれてしまうのが、現代のグローバル化した世界だからである。

 自国の国益だけを追求しようとする「帝国主義路線」の行き着く先は、「共倒れ」でしかない。

 それ故に、この世界には「自由・民主主義・人権」の共通理念で結ばれた強固な同盟関係が必要なのである。

 そしてその同盟によって、帝国主義国を封じ込めなければならない。

 日本と欧州との新同盟を実現するには、まず日本が自立した主権国家として、独自外交を展開出来る国になることが求められる。

 戦後80年にして、我が国はようやく対米従属の桎梏から解放されて、真に国家戦略に基づく外交が可能な国家になり得る好機が訪れたのである。



「西洋覇道の走狗となるか、あるいは東洋王道の干城となるか」



 今年3月12日は、辛亥革命の指導者であった孫文の没後100年にあたる。

 孫文は亡くなる4カ月前に最後の来日をして、神戸で歴史的な「大アジア主義講演」を行った。

「大アジア主義」は、一般的な定義では、西洋列強による支配と抑圧に抗するべく、アジア諸国が連帯を実現すべきという思想潮流である。

 もともと大アジア主義の発祥は明治時代の日本であり、筑前玄洋社の頭山満、内田良平、宮崎滔天らによって唱えられた。

 そうした大アジア主義の思想は、日露戦争後、中国大陸でも広まった。

 孫文もまた大アジア主義の提唱者の一人であり、中国での革命は日本との提携によって実現しようとしていた。そのため、1905年に結成された「中国革命同盟会」の本部は東京に置かれていた。

 孫文は辛亥革命から13年後の1924年11月に来日した際、衆議院議員の西岡竹次郎と会談し、東亜の理想について語った。

 その内容は、「日本はアジアの盟主の地位を確立したにも関わらず、アジア民族の為に尽力することもせず、西洋列強の一員となって、アジアに対して強欲な姿勢を有している事には同意出来ない」というものであった。

 さらに孫文は、「今日の時代(=1924年当時のこと)は、日本が列強の隊列から離れる絶好の機会であり、ようやく目覚めたアジアの国々の盟主として、日本が彼等を率いて欧米に当たるべきである」と説いた。

 また西岡議員との会談後、1924年11月28日に神戸女学校で行われた「大アジア主義講演」において、孫文は下記のように語った。(以下抜粋)

「大アジア問題というのはどういう問題であるかというと、即ち東洋文化と西洋文化との比較問題である、即ち東洋文化と西洋文化との衝突する問題である、この東洋の文化は道徳仁義を中心とする文化でありまして、西洋の文化というのは即ち武力を中心とする文化である」

「それでこの大アジア主義というのは何を中心としなくちやならぬかというと、即ち我東洋文明の仁義道徳を基礎としなくてはならぬのである」

「それで大アジア問題というのはどういう問題であるかというと、即ち此圧迫される多数のアジア民族が全力を尽して、この横暴なる圧迫に、我々を圧迫する諸種の民族に抵抗しなければならぬという問題である」

「故にこのアジアの我々の称する大アジア問題というのは即ち文化の問題でありまして、この仁義道徳を中心とするアジア文明の復興を図りまして、この文明の力を以て彼等のこの覇道を中心とする文化に抵抗するのである」

「この大アジア問題というのは我々のこの東洋文化の力を以て西洋の文化に抵抗するという、西洋文化に感化力を及ぼす問題である」

「今後日本が西洋覇道の走狗となるか、あるいは東洋王道の干城となるか、日本国民が慎重に考慮すべきことであります」

 この神戸での講演から3カ月後、孫文は北京で逝去した。

「大アジア主義講演」は、孫文が日本国民に遺した最後のメッセージであり、謂わば孫文の遺言であったと言える。

 その内容を改めて見直すならば、100年前の孫文による「大アジア主義講演」は、形を変えて2025年の現代世界にそのまま当て嵌まることが分かる。

「覇道」や「王道」の用語を現代的に置き換えるならば、米国・ロシア・中国などの帝国主義国が「覇道」であり、EU諸国や英国など「自由・民主主義・人権」の理念や価値観を共有する国々が「王道」であると言えよう。

「大アジア主義」を唱えた孫文は、西洋列強の「覇道」に対抗するべく、日本と中国とが同盟して共に「王道」を歩むべき事を説いたが、結局、日本は西洋列強の一員としての「覇道」を選択した。そしてその結末は、昭和20年の無条件降伏であった。

 我が国は、再び同じ愚行を繰り返してはならない。

 軍事力も無く、今や経済力も無くなった我が国が、今後の世界において何らかの発言権を持とうとするならば、「自由・民主主義・人権」の理念や価値観を実現する「王道」を貫く以外に無い。

 我が国が世界の人々から尊敬されるような国になりたいのであれば、まず日本政府は、帝国主義の中国政府の顔色など窺うことなく、堂々と中国民主化運動を支援し、チベットやウイグルの人々を本格的に援助しなければならない。

 それこそが現代世界における「王道」の実践である。

 そして、かつて孫文が日本との同盟を望んだように、我が国は、同じ理念や価値観を共有する欧州諸国との同盟を求め、共に帝国主義の「覇道」に対抗するべきなのである。
















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