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2024年以降の世界情勢を考える

トランプ米次期政権が目指す新世界秩序

[2023.12.1]



11月にテキサス州を訪れたトランプ前米大統領
PHOTO(C)REUTERS


米国政府の助成金とAI技術が中国に流出


 米中間の技術競争が激化する最中、米国防総省の多額の助成金が中国のために働く中国人研究者の手に渡り、さらに最先端のAI(人工知能)技術が流出していたというスクープ記事が、「ニューヨーク・タイムズ」誌に掲載された。

 問題の中国人研究者は、朱松純(チュー・ソンチュン)55歳である。

 朱松純は、米国防総省から少なくとも3千万ドルの研究助成金を得ていたと言われる。

 今や中国は、AI分野において米国を凌駕しようとしているが、朱松純もその一翼を担っている一人である。

 朱松純は、中国の大学でコンピューター科学を専攻し、卒業してからアメリカに留学した。1996年にハーバード大学で博士号を取得し、ブラウン大学、オハイオ州立大学、スタンフォード大学に職を得た。

 2001年には米海軍から若手研究者を対象とする賞(75万ドル)をもらい、NSFからも34万ドルを授与されている。

 そうした朱松純は、中国共産党の主導する「千人計画」のメンバーである。

「戦略的科学者、および重要技術において突破口を開き、ハイテク産業を発展させ、新興の研究分野を推進できる指導的な科学技術分野の人材」を海外から中国に帰還させるのが「千人計画」の目的とされる。

 朱松純は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のAI研究所を率いた人物で、彼が中国の武漢近郊で同様のAI研究所を立ち上げ、北京大学で軍事技術の開発を支援する役職に就き、中国共産党の「千人計画」(海外からの知識や技術の移転を先導するプログラム)のメンバーに選ばれてからも、米国防総省からの多額の助成金を受給していた。

 米国の大学の研究環境はオープンであり、それ故に世界中から有能な人材が集まるのであるが、一方で、技術流出のリスクと表裏一体である。

 問題は、中国当局がそこに付け込んで、国家ぐるみで技術スパイ活動を展開している事である。

 その結果、米国の大学が中国のスパイ研究者達を積極的に迎え入れ、軍事転用が可能な先端技術を中国に提供した上、米国政府は中国のスパイ研究者達に多額の研究資金を提供しているのである。

 因みに米国防総省は、この問題についてメディアから問われた際に、「国際協調には利点もある」と回答したという。「中国のみならず世界中からトップレベルの研究者が米国にやって来るのは公的助成金のおかげだから」という事である。

 なお朱松純は、現時点では如何なる法令違反にも問われていない。

「ニューヨーク・タイムズ」誌によれば、朱松純に助成金を出していた米政府機関には、米国防総省の防衛先端技術研究計画局(DARPA)や米海軍、米陸軍が含まれるという。

 朱松純は統計学とコンピューターの専門家としてUCLAに18年間在籍し、2020年に中国に帰国するまでの約10年間、米国政府から資金提供を受けていた。また米国防総省の助成金ウェブサイトによると、帰国後の2021年にも2件の助成金が支給されている。

 内1件は、「自律型ロボットや捜索・救助任務など、国防総省にとって重要」な「高次のロボット自律性」の研究で、総額69万9938ドルである。

 もう1件が、「地上および空中のセンサーによる情報収集・監視システム」のための「認知ロボットのプラットフォーム」構築を目的とする研究で、52万811ドルが支給されていた。いずれも米海軍研究局からのもので、筆頭研究者として朱松純の名が記されている。

 またUCLAによれば、朱松純を筆頭研究員とするプロジェクトに対する助成金の総額は過去15年間で約2200万ドルに上るという。

 朱松純は、米国にとって重要なAI分野の専門家であり、そのために米国防総省などから多額の助成金を受け取ってきたのであったが、その巨額の投資に見合う利益が米国側にあったかどうかは甚だ疑問である。

 なぜなら、朱松純はその後、中国で研究所や企業を設立し、そこに自分の育てた大学院生やポスドク研究員を集めているからである。

 2020年に中国に戻った朱松純は、直ちに「北京通用人工智能研究院(BIGAI)」を創設した。また彼は、昨年12月に設立された「北京大学武漢人工智能研究院」の首席研究員でもある。

 米シンクタンク「安全保障・新興技術センター」によると、米国で学んだ後、この数年で中国に帰国したAI専門家は他にもいる。

 例えばマイクロソフトの元執行副社長ハリー・シャム(中国名は沈向洋〔シェン・シアンヤン〕)や、カリフォルニア大学バークレー校など米国内の複数の一流大学で教鞭を執った蒲慕明(プー・ムーミン)である。

 またマサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭を執り、2000年にコンピューター科学におけるノーベル賞といわれるチューリング賞を受賞した姚期智(ヤオ・チーチー)も中国に帰ってしまった。

 このように、中国は国家ぐるみのシステムを通じて、米国政府の資金で行われた研究から技術やノウハウを引き出しているのである。

 しかも中国研究者達は、米国政府からの公的資金を得ていながら、同じ研究で中国政府からの資金も受け取っている。所謂「二重取り」である。

 資金は二重取りでも、彼等はあくまで中国の国益の為に動いている。

 諜報活動の場合は、二重スパイが敵対国に偽情報を流して混乱させる手口があるが、中国の二重取り研究者達も、米国側の研究や技術開発を妨害している可能性がある。

 中国指導部は、人民解放軍が技術や能力において米国とその同盟国の軍隊を凌駕することを目指すと公言している。AIはその核心部分である。

 中国は、習近平の唱える「100年に一度の大変革」を追求し、ロシアやイランなど米国と対立する国々との関係を強化しつつ、今世紀半ばまでに経済や地政学の分野だけでなく技術面でも米国を凌ぐ存在になることを目指している。

 一方、米国政府も、中国による技術情報移転への危機感を持ち始めている。

 スタンフォード大学は10月初め、教授会所属の12人に対する外国からの支援について公表しなかったことを司法省に指摘され、190万ドルの返還を求められた。

 この12人には、著名な米国人化学者リチャード・ゼアーが含まれていた。彼は筆頭研究者として米陸軍や米空軍等から380万ドルを得ながら、中国の国家自然科学基金からも資金を受け取っていた。

 このゼアーは、上海にある復旦大学の「高度人材計画」のメンバーにも選ばれていたという。

 このように中国側に買収された米国人研究者は他にもいる。

 米国人化学者であるチャールズ・リーバー(ハーバード大学教授、休職中)は、中国の「千人計画」との関係について政府当局にウソを述べ、武漢理工大学で有給の職に就きながら申告せず、法律で義務付けられた所得の申告を怠ったとして2020年に逮捕され、今年4月に未決勾留期間に加えて罰金を科されている。

 こうした状況を放置し続けてきた事は、いずれも民主党バイデン政権の大失態と言ってよい。



国際紛争を前に身動き出来ないバイデンの米国


 ここ数年で世界の地政学的環境は激変した。

 現在進行中のロシア・ウクライナ戦争とイスラエル・ガザ戦争は、いずれも大国間の代理戦争となりつつあり、今後の世界秩序の指導国がどこになるかが決まろうとしている。

 2つの戦争の長期化に伴って、いよいよ台湾をめぐる「第3の戦争」が秒読み段階に入ったと見られる。

 因みに、現在の米国の軍事力は、「一方面」にしか展開能力を有していない。

 現時点では、米国は欧州戦線にも中東戦線にも派兵はしていない。

 最大の理由は、中国に対する牽制の為である。

 米軍が一方面にしか展開能力を有していない事は、中国指導部にとっては周知の事実である。

 もし米軍が欧州あるいは中東に派兵した場合、米国には極東に回せるだけの兵力が存在しない為、中国は余裕で台湾を武力制圧出来ることになる。

 そのため中国は、米国が欧州戦線あるいは中東戦線に派兵を開始するタイミングを虎視眈々と狙っている。その時こそ、台湾併合のチャンスだからである。

 一方、米国もまたそうした事情をよく知っている為に、絶対に欧州にも中東にも派兵は出来ないのである。

 従って米国は、ウクライナとイスラエルに弾薬や誘導爆弾やミサイルなどを支援するだけに留まっている。武器は供給しても、兵力は出せない状態にある。

 そして、2つの戦争が長引けば長引くほど、米国の軍産複合体は大儲けが出来ることになる。

 2つの戦争はいずれも、米国が直接軍事介入すれば早期終結に向かうであろうが、ホワイトハウスは絶対にそうした選択をしない。

 第一の理由が中国への牽制であり、第二の理由が軍産複合体の支持を得るためである。

 たとえゼレンスキーを見殺しにしても、米国は決して動かない。

 そうして米国がいつまでも参戦しないようであれば、やがて中国の習近平も焦り始めることになる。

 台湾統一を「歴史的使命」とまで呼んでいる習近平は、台湾侵攻の為にどんな事をやっても不思議ではない。

 米国を中東に直接介入させる為に、中国はありとあらゆる秘密工作を展開するであろう。

 中国がイランやシリアなどを後押しして、イスラエルに軍事侵攻させる可能性も十分にあり得る。

 その際に、もしイスラエルが国家存亡の危機に陥った場合には、同盟国である米国が中東に派兵しなければ、米国の国際的信用や評価はガタ落ちになってしまうことになる。

 米国の立場としては、同盟国でないウクライナを見捨てたとしても、同盟国のイスラエルを見捨てるわけにはいかないのである。

 何よりも、米国内のユダヤ資本の支持を得る為に、米国政府は必ずイスラエルの救援に向かわなければならなくなる。

 そして止むを得ず米国が中東に介入したならば、直ちに中国は台湾への武力侵攻を開始することになる。

 バイデン米大統領もそれを承知で、今は何とか中国との緊張緩和の道を模索しようとしている。

 バイデン米大統領は、政府閣僚を次々に中国へ送り込む一方、サンフランシスコで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議では習近平との直談判に臨んだ。

 今や投資と貿易の流れは変わりつつあり、世界経済は2つのブロックに分裂しつつある。

 既に中国とグローバルサウスとの貿易量は、対西側陣営よりも多い。

 将来的な台湾侵攻での制裁リスクに備え、中国は西側との経済的デカップリングを粛々と進めている。

 数年前には米国をはじめ西側諸国が中国を経済的に孤立させようとしていたが、今ではグローバルサウスとの間に中国経済圏が形成されつつあり、逆に西側が締め出されつつある。

 世界経済は、「1つの世界市場」というグローバリズム経済から、今後は世界市場を二分するブロック経済へと移行してゆくことになる。

 一方で世界は、格差の拡大や債務危機問題、AI(人工知能)に代表される技術の進化、環境破壊や気候変動への対応などを迫られている。

 もはや地政学的な再編が地球規模で起きる事態は避け難く、西側陣営とその対抗勢力(中国、ロシア、イスラム圏、グローバルサウス)の衝突は避けられない地点にまで達している。

 その場合、米国の出方次第で世界はどちらに転んでもおかしくない状態になる。



トランプ米次期政権の政策構想



 このように激変する世界情勢の中、現在米国では、来年の大統領選で共和党のトランプ前米大統領の勝利が確実視されている。

 トランプ前米大統領は、すでに第2期トランプ政権構想の立案を本格化している。

 その政策の骨子が、政策綱領「アジェンダ47」(Agenda 47)として公表された。

「アジェンダ47」は、内政外交経済政策での47項目の重要課題を列挙している。主な政策は以下の通りである。

1.中国依存の通商路線からの脱却。中国に対する最恵国待遇の停止。

2.バイデン政権の推し進めるESG投資(社会責任投資=環境、社会、ガバナンスに配慮した企業に対する投資)から米国民を守る。

3.自動車産業労働者の生活を守るために「グリーン・ニューディール」政策を中止する。

4.大統領権限を発動して国家予算の無駄使い、インフレ阻止、連邦各省庁に潜む「ディープ・ステート」(闇の政府、国家の内部における国家)の一掃排除。

5.不法移民の子女に対する市民権の剥奪、外国人妊婦の出産観光入国の禁止。

6.過激なマルクス主義を信奉する連邦・州検察官の解雇。

7.公選されていない「第4の権力」として政治を動かす連邦政府官僚の権限縮小。

8.国務、国防各省庁、国家安全保障会議(NSC)など国家安全保障部門に住みつく好戦的な国際主義者(グローバリスト)の追放。

9.国内エネルギーに対する各種規制の解除、米国のエネルギー自立政策の確立・再構築。

10.核戦争回避のため、ウクライナ戦争の即時戦闘停止と和平の実現。

 因みにトランプ氏の側近は、「トランプ氏の政策を最も忠実に反映しているのは『アジェンダ47』だ」と語っている。

 これと並行して、ヘリテージ財団(ケビン・ロバーツ理事長)は、保守派学者400人に委託し、内政外交経済各分野での具体的な政策提言「プロジェクト2025」をまとめた。

 この政策提言は、いわば政権交代に向けたトランプ政権移行準備チームの「虎の巻」であり、920ページにも上る。

「プロジェクト2025」は、「米国は今、外的内的脅威にさらされ、ワシントンを牛耳る無責任な国際主義と過激リベラル分子によって分断と腐敗を招いている」と断定している。

 そして、「共和党も米国が置かれている米社会のモラル基盤が危機的状態にあるという現状認識の甘さが目立っている」と警告する。

 また外交スタンスで特に目立つのは、強硬な対中政策である。

「プロジェクト2025」の骨子は以下のとおりである。

1.中国は共産党一党独裁の権威主義国家であり、米国の敵であり、戦略的パートナーでもフェアな競争者でもない。

2.その中国を競争者とみなして対中政策を行ってきたリベラル派エリート官僚は米国民を騙し、裏切ってきた。

3.こうした対中政策を行ってきた要因はただ官僚たちの無能さにあるのではなく、米国の主権、立憲政体の在り方にある。こうした状況に至った根っこと幹を伐採する時期に来ている。

4.中国の対米スパイ活動は、米国の若年層に蔓延る「TikTok」や米各大学に進出した「孔子学院」などにより、米社会に浸透している。

5.次期大統領は現在の対中政策を直ちに是正する責務がある。

「プロジェクト2025」作成に当たっては、MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大にする運動)がリードする「ターニング・ポイントUSA」、「センター・フォア・リニューイング・アメリカ」、「アメリカン・モーメント」など80団体が資金援助している。

 トランプ第1期政権は、発足時にはトランプ氏に対する忠誠心よりも、自薦他薦の共和党保守本流のエリートや軍幹部をホワイトハウスや主要省庁の要職に就けた。

 その結果、トランプ氏や側近と政策や路線をめぐって軋みが生じることになり、大統領首席補佐官や国務、国防各閣僚が任期途中で解雇されるなど、混乱が続いていた。

 その後、出版された内幕ものでは、当時の主要閣僚がトランプ氏を無能呼ばわりする「醜聞」が露呈した。

 こうした事を二度と繰り返さない為に、再選されるトランプ第2期政権では、「米国第一主義」「健全な保守主義政権の確立」を目指すトランプ氏への絶対的忠誠を誓った者しか登用しない、とトランプ陣営の幹部は語っている。

 1期目には軍や実業界出身の従来型の人材を頼りにしたが、次はそうならない。

 今やMAGAの運動は、かなりの信者を擁する一大カルトになっている。

 トランプ氏が計画している重要な国内政策の一つは、キャリア公務員を自分に忠実な手下に置き換えるというものである。

 理由は「ディープ・ステート(闇の国家)」なるものの存在である。

「ユダヤ勢力やイルミナティによって構成されるディープ・ステートが米国を実質支配しており、善良な米国市民が抑圧されている」とし、そうした邪悪なディープ・ステートを排除して理想的な米国を取り戻すべしと主張する人々が、トランプ支持者の中核を成しているのである。

 また、見逃せないのが世界経済への影響である。

 トランプ氏は、米国の輸入品すべてに10%の関税を一律に課すことを提案している。

 自由貿易主義から保護貿易主義への大転換である。

 もし実行されれば、1930年に施行された悪名高いスムート・ホーリー法の現代版になる。

 その場合、諸外国も同様に米国からの輸入品に対して関税をかける報復措置を取ってくることは間違いない。

 また次期トランプ政権は、恐らくバイデン政権下で導入されたインフレ抑制法(IRA)に盛り込まれた施策の多くを破棄するだろう。

 かくして長年にわたり人々が当たり前のように信じてきた自由貿易の世界経済は終わり、複数のブロック経済へと移行してゆくことになる。



トランプ氏が目指す米露和解と中露分断戦略


 トランプ氏は今年3月に、「ウクライナで毎日代理戦争が続き、われわれは世界戦争の危険を冒している。われわれの目的は『直ちに』互いが敵意を完全に捨て去るようにすることだとはっきりさせなければならない。我々に必要なのは即時の『平和』だ」とネット上で主張した。

 これまでトランプ氏は、ウクライナ戦争に関して、ロシアのプーチンを批判した事が一度も無い。またウクライナ支持を表明したことも無い。

 一方でトランプ氏は、中国に対しては一貫して強硬な姿勢を崩さず、バイデンの対中弱腰外交を批判している。

 こうした言動から、トランプ氏の世界戦略は、50年前のニクソン外交のようなものになると予測される。

 かつてニクソンが中国を味方に取り込んでソ連を孤立化させたように、トランプ氏はロシアを味方に取り込みながら、中国を孤立させ、対中包囲網を形成する外交戦略を構想しているものと推定される。

 次期トランプ政権の米国が仲裁に入って、ウクライナ戦争の「即時停戦」を実現する事は十分にあり得る事である。

 その際には、かつてニクソンが中華民国(台湾)を見捨てたように、トランプ氏はロシアを取り込む為のエサとして、ウクライナを見捨てるであろう。

 ウクライナ戦争で進退窮まっているプーチンとしては、藁にもすがりたい状態である為、米国が手を差し伸べればしがみついてくる事は想像に難くない。

 米国にとって、ロシアはすでに脅威ではない。

 米国にとっての真の脅威は中国であり、中国封じ込めの為に米国がロシアと同盟し、中露を分断して中露が対立するように仕向ければ、米国外交の勝利である。

 イデオロギーの原則よりも、国際力学の原則を優先する事こそが現実政治家の使命である。

 第2次世界大戦中に英国のチャーチル首相が、「ヒトラーを倒す為なら悪魔とも手を組む」と言ってソ連のスターリンと同盟し、その結果目的を達成したように、国際政治において重要な事はイデオロギーではなく、あくまで敵に勝つための現実戦略である。

 このような抜本的な国家戦略の大転換を実現出来る政治家は、現在の米国においてはトランプ氏の他には存在しない。

 イデオロギーよりも利益を重視するビジネス界で長年活躍してきたトランプ氏は、「悪魔とも手を組む」徹底したリアリズム外交を展開するであろう。

 半世紀前にニクソン大統領やキッシンジャー国務長官によって実現された米中和解は、日本への通告なく頭越しに行われた事から、当時の日本の政治家や官僚は慌てふためき、「ニクソン・ショック」と呼ばれた。

 今後、もし次期トランプ政権の米国がロシアと和解すれば、「トランプ・ショック」などと呼ばれ、再び日本の政治家や官僚は慌てふためくことになるだろう。

 かつて「経済一流、政治三流」と言われた日本であるが、今や「経済三流、政治も三流」となりつつある。

 現在の日本の最大の問題は、トランプ氏やプーチンと渡り合えるレベルの政治家が存在しない事であろう。













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