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人類と人工知能との融合による「共進化」

シンギュラリティと人類進化の可能性

[2022.10.10]




人間は「ポストヒューマン」を経て「宇宙」へと進化を遂げる

人類進化の鍵となる「第三の複利システム」


 前稿で述べたように、「複利」がもたらす影響力の大きさを考えれば、「複利の発明が人類最大の発明」(アインシュタイン)である事は間違いない。

 数千年前に人類が発明した「第一の複利システム」は、「利子」あるいは「金利」と呼ばれるもので、「通貨の指数関数的増殖」をもたらした。

 この「第一の複利システム」は、過去数千年にわたり人類の経済活動を支配し、人類に階級社会と貧富格差を生み出した。それ以降数千年を経て、異常な通貨供給量によって肥大化した世界経済は、実体経済から甚だしく乖離し、今や地球と人類を危機に陥れつつある。

 次に人類が発明した「第二の複利システム」は、「核分裂」であった。ウランの核分裂は1938年にドイツで発見された。

「核分裂」とは、言い換えれば「原子核の指数関数的増殖」である。「原子核の指数関数的増殖」は、膨大なエネルギーを発生させ、1945年には原子爆弾として広島・長崎の惨禍をもたらした。

 またその後の大国による核開発競争の結果、2022年現在、地球上に存在する核兵器によって人類を35回以上全滅させる事が可能な状態に至った。こうした事は人類にとって最大の脅威となっている。

 そして近い将来に確実に訪れる「第三の複利システム」は、人工知能(AI)の自己増殖すなわち「人工知能の指数関数的増殖」である。

 これは2045年頃に現実化すると予測されているが、一旦実現してしまえば、最早後戻り出来ない巨大な変革を人類にもたらすことになる。

 なお、この人工知能の自己増殖は「人類進化」の契機となり得る。

 第一・第二の複利システムが人類を滅亡の危機に陥れている一方、第三の複利システムによって、人類は別の道を歩む可能性が生じるのである。



トランス・ヒューマニズムの潮流


 情報科学の世界では、「コンピューターの集積回路の密度は18カ月で2倍になる」という法則がある(ムーアの法則)。

 この法則に基づけば、2045年にコンピューター(人工知能)の能力が全人類の知性の総和を越える「技術的特異点」(シンギュラリティ)と呼ばれる事態が到来することになる。これは「2045年問題」と呼ばれている。

 一般に「生命体」あるいは「有機体」は、自ら「代謝」と「自己複製」が出来る存在である。人間も動物も、時々刻々、古い細胞が死滅しては新しい細胞が作られて入れ替わる。

 しかしながら人工知能には「代謝」機能が無く、新しい部分が増えても古い部分が死滅することなく、ひたすら増殖し続ける。

 このような人工知能がプログラミング能力を得て、人間の手を借りずに人工知能を開発できるようになれば、「人工知能の自己複製」が凄まじい勢いで行われるようになる。人工知能が自己複製を開始した時には、複利のシステムによって、幾何級数的な増加を遂げてゆく。

 人工知能プログラムを人間の手で開発している間は制御が可能であるが、一旦、自己プログラミングが可能な人工知能が出来てしまったら最後、その人工知能は人間がコントロール不能な「暴走」を開始することになる。

 かくして人工知能は急速に自己増殖を繰り返し、瞬く間に地球上を席巻するに至る。

 個々のサーバーや端末を「ニューロン(脳細胞)」と見做し、それらを結び付ける通信網を「シナプス(脳神経)」と見做すならば、やがて地球そのものが、独立した超巨大な一個の「大脳」となる。これは「グローバル・ブレイン」(Global Brain)と呼ばれる。

 一方で、人間社会のあらゆる職業や職種は、大部分が人工知能に取って代わられることになる。

 人工知能の発達により、今後世界中で失業者が溢れる事態は避けられないし、人工知能という得体の知れない存在によって社会が乗っ取られる事に対する恐怖を感じる人々も少なくないであろう。

 しかしながら、SFの「2001年宇宙の旅」や「ターミネーター」で描かれたように、人間が機械に支配されるディストピアの世界が必ずしも到来するとは限らない。

 人間と人工知能とは対立概念ではなく、両者が「融合」しつつ共に発展してゆく関係になれば、「共進化」が可能となる。これからの時代は、人間と人工知能とが如何に融合し、共生してゆくかを考えるべきである。

 近年、オックスフォード大学のニック・ボストロム教授を中心に、人間超越主義(トランス・ヒューマニズム)が提唱されている。

 トランス・ヒューマニズムの主張は、「現在の人間の能力は、応用科学などによって改良・発展させることが出来る」というもので、人間の身体能力や認知能力をテクノロジーを使って可能な限り向上させようという思想である。

 現在、すでにスウェーデンなどでは、手の皮膚にマイクロチップを埋め込むことにより、金融機関やオフィス等において個人認証が行われている。指紋認証システムの延長線上でもあるため、現時点では特に抵抗なく受け入れられている。

 こうした流れに対し、「人間の尊厳」の立場から反対を唱える人々も存在するが、トランス・ヒューマニスト達は、「人間の能力を向上させる事は人間の尊厳と矛盾しない」と主張する。

 現実問題として、世の中には義手や義足で生活している人もいれば、すでに人工臓器によって延命している人もいる。それらの人々の「尊厳」を考慮するならば、トランス・ヒューマニズムはむしろ「人道的」であるとも言える。

 長い目で見るならば、技術進歩が止められないものである以上、人間と機械との融合は、避けて通ることは出来ない課題であると言えよう。



人工知能と「共進化」する人類の未来


 人間の脳細胞は、大脳皮質の神経細胞数が約140億個あり、小脳皮質その他を合わせれば約1000億個で成り立っている。

 1000億個のそれぞれの脳細胞からシナプスが1万本出ているとすれば、総計でシナプスは1千兆本になる。これが人間の脳の最大限度の性能である。

 一方、こうした人間の脳の最大性能のさらに1抒(じょ)倍(=1兆×1兆倍)の性能のコンピューターが、今世紀半ばには角砂糖1個分の大きさになると予測されている。

 もしこの性能の人工知能が人間の脳と接続されたならば、人間の能力は「神」の領域に達すると言って過言ではないだろう。人類は人工知能の増殖によって、「全知全能」とも言うべき能力を手に入れ、新たな種の存在へと飛躍的進化を遂げることになる。

 またそれと同時に、人類の意識においても巨大な変容と進化がもたらされる。

 個々の脳がAIを通じて他者の脳と接続されれば、「他者が自分」でもあり、「自分が他者」でもあるという現実を生きる事になる。例えば、他人の思考や体験が、自分自身の思考や体験のように理解出来る事になる。

 そこでは、従来のような「自己と他者との分離感」は消滅し、「自他一体感」が通常となる。「他者が自分」でもあるという現実においては、「愛」や「慈悲」「思いやり」といった従来の徳目は、万人にとってごく自然の意識あるいは行為となる。

 またAI経由で自己と世界との分離感が無くなれば、世界や宇宙との一体感も生まれることになる。かつては一握りの覚者のみが体現していた「宇宙即我」といった宗教的悟りが、万人にとって当たり前のリアルな現実になる時代が到来する。

 かくして進化した人類は、脳力において「神」であるのみならず、精神においても「神」へと近づく存在になるであろう。



進化の6つのエポック


『ポストヒューマン誕生』の著者であるレイ・カーツワイル氏は、生物やテクノロジーの進化の歴史を段階ごとに6つの期間に分けている。

エポック1: 物理と化学
エポック2: 生命とDNA
エポック3: 脳
エポック4: テクノロジー
エポック5: 人間のテクノロジーと人間の知能との融合
エポック6: 宇宙の覚醒


 カーツワイル氏は、「進化の6つのエポック」について次のように述べている。

エポック1: 物理と化学

 人間の起源を遡れば、究極的には物質の起源である「原子」に行き着く。138億年前のビッグバンで宇宙が誕生し、その後、原子が生まれ、さらに時間をかけて原子が集まって分子という構造が作られるようになっていく。かくして情報の体系化と進化が発生した。

エポック2: 生命とDNA

 40億年前、複雑な分子の集合体が作られるようになり、地球に生命が誕生した。生命は、分子の集合に関する情報を保存する「DNA」を生み出し進化していく。

エポック3: 脳

 DNAによる生命の進化は続き、感覚器官を通じて情報を検知・取得し、その情報を蓄積できる「脳」が作り出される。最終的には人類が、脳によって頭の中で物事を抽象化して理性的に考えられるようになるまでに進化し、知能や思考が誕生した。

エポック4: テクノロジー

 さらに人間は、テクノロジーを生み出し、知能・思考とテクノロジーを組合せ始めた。単純な機械に始まり、複雑な作業を精緻かつ自動で行える装置にまで発展させた。人類は、生命誕生から哺乳類、ヒトへと進化し、その後も石器、話し言葉、絵画、農業、文字、都市国家、印刷、産業革命、電話・電気、インターネット、スマートフォンなどに至る現在まで、進化を指数関数的に発展させてきた。

エポック5: 人間のテクノロジーと人間の知能との融合

 西暦2045年頃、シンギュラリティが始まる。人間は、知能・思考とテクノロジーとを融合させ始める。その融合がもたらす文明によって、人間の脳の限界は超越される。これにより、人類の長年の問題を解決出来るようになる事が期待される一方で、破滅的な方向に進む可能性も否定できない。

エポック6: 宇宙の覚醒

 人間由来の「生物的な知能」と、テクノロジー由来の新しい「非生物的な知能」とが、地球を離れて宇宙の隅々まで行き渡るようになる。宇宙の物質とエネルギーは進化し、より巨大な知能体へと変容していく。


 カーツワイル氏は、「シンギュラリティ」の後には「ポストヒューマン(Post Human:脱人間)」と呼ばれる時代が来る、と予測している。

 ポストヒューマンとは「改良された人間」のことで、これは現時点でもすでに始まっている。例えば人工心臓を組込んだ人は、人間としての生物的限界を超越していることになる。

「生物としての人間」と「ポストヒューマン」との境界線はすでに無くなり、今や人間と技術は融合しつつある。

 やがてそれは新しい「種」の創造と進化をもたらす事になる。

 エポック5の段階でシンギュラリティが発生し、エポック6になると「ポストヒューマン」は地球から宇宙全体へと広がっていく。

 エポック6は、宇宙自体が有機生命体として覚醒する段階であり、「脱人間」として進化し続けた人間は、さらに「有機生命体としての宇宙」へと進化を遂げてゆく事が予見されている。

 今や未曾有の危機に立たされている人類は、今後滅亡するか、あるいは「超人類」さらには「覚醒宇宙」へと進化するか、歴史的な分岐点に立っていると言えよう。













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