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カーツワイルとノア・ハラリの近未来予言

「シンギュラリティ」と「ホモ・デウス」

[2022.7.15]




人工知能は指数関数的に進化し、シンギュラリティ以降の世界は予想不可能と言われる。

カーツワイルが予測する未来世界


 人工知能研究の世界的権威でもある米国のレイ・カーツワイルは、「シンギュラリティ(技術的特異点、technological singularity)」の概念の提唱者として知られる。

 カーツワイルが2005年に出版した書籍『シンギュラリティは近い〜人類が生命を超越する時〜』は、世界中に衝撃を与えた。

 2005年当時、既にカーツワイルは2010年代には次のようになると予言していた。

「コンピューターはどんどん小さくなり、ますます我々の日常生活に統合されて行く」

「仮想現実(バーチャルリアリティ)が生成される。ユーザの網膜上にビームの映像が投影される眼鏡が登場し、これらの眼鏡は新しいメディアとなる」

「人間は自分の遺伝子を変化させる手段を持つことになる」


 カーツワイルのこれらの予言は、いずれも2010年代に実現された。

 今ではPC自体の小型化のみならず、携帯電話が「小さなPC」になっており、日常生活の中で必需品となっている。

 またバーチャルリアリティ(VR)については、2016年には「VR元年」と言われ、VRの新メディアとしてPSVRなどが販売され、今や「メタバース」が流行語となっている。

 そして2018年11月には、中国がヒト受精卵の遺伝子を操作する「ゲノム編集」を用いて、世界初の「ゲノム編集ベビー」として双子の女児を誕生させた。

 現在私達が生きている時代は、50年前の人々からすれば「SFの世界」のように見えるであろう。

 だが、実現する前は「SFの世界」のように見えても、実現すれば全ては当たり前の「日常」になってしまうものである。

 そして、カーツワイルの「今後の予言」は以下のようなものである。


2020年代

「サイズが100ナノメートル未満のコンピュータが可能になる」(1ナノメートルは1mmの 1/1000000 のサイズ)

「実用的なナノマシンが医療目的で使用される」

「血流に入れるナノロボットは、2020年代の終わりまでに登場する」

「人間の脳全体の正確なコンピュータシミュレーションが可能になる」

「人工知能(AI)が、教育を受けた人間と同等の知性になる」

「2020年代後半には、仮想現実(バーチャルリアリティ)が、本当の現実と区別がつかないほど高品質になっている」

「一部の軍用無人偵察機や陸上車両は、100%コンピュータ制御される」


2030年代

「精神転送(マインド・アップローディング)が成功し、人間がソフトウェアベースになる」

「ナノマシンを脳内に直接挿入する事が出来るようになり、ナノマシンと脳細胞との相互作用が可能になる」

「人々の脳内のナノマシンは、認知・メモリ・感覚機能等を拡張・増設することが出来る」

「脳内ナノマシンにより、外部機器を必要とせずに、真のバーチャル・リアリティを生成することが可能になる」

「脳内ナノマシン相互の無線ネットによる脳内情報伝送を使用して、他人の日常生活の思考や感覚をリモート体験する事が出来るようになる」

「ナノテクノロジーは、人間の知性・記憶や人格の基礎を変え、人々は自分の脳内の神経接続を自由に変更出来る」


2040年代

「人々は、映画『マトリックス』のように、仮想現実で時間の大半を過ごすようになる」

「フォグレット(人体を取り巻くナノマシン群。人間の外見を自由に変化させる)が使用される」

「2045年にはシンギュラリティ(Singularity)が起こる」


 カーツワイルの言う「シンギュラリティ」とは、技術的特異点 (Technological Singularity) の事で、「人工知能(AI)が人類の知性を超える時点」を指す。

 元々「シンギュラリティ」 とは、数学や物理学でいう「特異点」のことで、「ある基準において、その基準が適用できなくなる点」という意味である。

 例えば、重力場が無限大となるような場所を指して、「重力の特異点」(Gravitational Singularity) という。

 そしてカーツワイルの言う「技術的特異点」 (Technological Singularity) とは、情報通信・エネルギー・医療等々の技術進歩のスピードが急激に上昇し、これまでとは全く異なる予測不能な形で進歩し始める時点の事を意味する。

 カーツワイルは、技術進歩のプロセスにおいて、ある時点を過ぎると技術進歩のスピードが「指数関数的に加速」するという。

 これにより、人類史上初めて「人間よりも優れた知性を持つ生命体」が誕生する事になる。

 ではそれ以降の世界は一体どうなるのか?

 SF映画の「2001年宇宙の旅」や「ターミネーター」などでは、AIが人間を支配しコントロールするディストピアの未来世界が描かれていたが、現実の世界において、AIと人間が必ずしも対立関係になるとは限らない。

 カーツワイルによると、人間もその頃には「機械と融合して全く新しい存在に生まれ変わる(=トランス・ヒューマン、超人類)」ことになる為、AIと人間が対立する可能性は極めて低いと述べている。

 人類の未来は、AIや機械と一体化してサイボーグになる人もいれば、人生の大半を仮想現実に生きる人もいるなど、従来とは全く異なる新しい世界が出現するという。

 またカーツワイルは、人間と機械との融合により、あるいはVR技術で「精神」をアップロードする事により、「不老不死」が実現されるとも予測している。「不老不死」が常態化すれば、やがて「年齢」という概念も無くなるであろう。

 しかもこれは、100年後や200年後の遠い未来の話ではなく、今世紀前半の内に起こる近未来の事であるという。

 人間が、知力も体力も「万能」で、しかも「不老不死」の存在となれば、人間は「神」のような存在になるということになる。



歴史学者ハラリが予言する人類の未来


 上記のように、AIやロボット工学やナノテクノロジーといった技術が爆発的に発展し、トランス・ヒューマン(超人類)が増加してゆく社会は、果たして人間にとって「楽園」なのか、それとも「地獄」なのか。

 光があれば影があり、ユートピアとディストピアとは表裏一体である。

 イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ教授は、その書籍『ホモ・デウス』において、「サピエンス=現人類」 が「デウス=神」になる可能性を予言している。

 ハラリは、前作『サピエンス全史』の最後で、サピエンスは科学の力により自らをアップグレードし、新たな人類へと移行する道を選ぶのではないかという予想を立てていた。この点では、カーツワイルと同様である。

 そしてハラリは、『ホモ・デウス』において、さらにその先の未来社会を描き出した。

 ハラリは、サピエンスがすでに飢饉、疫病、戦争という人類にとっての脅威を概ね克服したと認識している。

 その上でハラリは、飢饉、疫病、戦争を克服した人類は、次に「不死」を目指すだろうと予想する。

 事実、遺伝子工学や再生医療やナノテクノロジーは急激に進歩しており、米国の大手IT企業はこれらの分野に莫大な投資を行っている。

 そして、発展した遺伝子工学やテクノロジーにより、人々が超人的な能力をアップグレードする事が出来たならば、人類社会はどのような変化を遂げるであろうか。

 人類の未来を予測するには、まず人類の過去の経緯を知らなければならない。

 数千年前、農業革命により原始的な都市が形成されると、都市や王政を維持する為に「有神論」のフィクションが生み出され、人類は「神」という共同主観に支配された。

 この過程で、人間は神よりも下等な生き物であり、動物は人間よりも下等な生き物という世界観が形成された。

 農業革命以前、狩猟採集民の世界観であったアニミズムは、人間と動物に優劣をつけてはいなかった。人間は他の動物よりも必ずしも優秀な力を持っていたわけではなかった為である。

 しかしながら農業革命は、有神論の世界観を定着させ、有神論はアニミズム的な「動物の神格化」に終止符を打った。人間は動物を支配し、動物の存在を人間よりも劣等の存在として位置付け、人間を自然界の頂点と考えるようになった。

 農業革命によって自然界をコントロールする事が可能になった人類は、地球上に「家畜」という新たな生き物を誕生させた。現在では、地球に存在する大型動物の9割以上が「家畜」である。

 こうした「有神論」の時代は長く続いたが、やがて近代になると、ニュートンなどによる科学革命が、「神」を脇役へと追いやる事になった。

 科学革命は、「有神論」に代わって「人間至上主義」という新たな宗教をもたらした。

 それ以前の中世の人々は、世界の存在や個人的経験は、「神」により意味が与えられると考えていた。しかし近現代の人々は、個人の経験や人生に意味を与えるのは「人間の意識」であると考える。

 近現代人は、個人の意識にこそ最上の価値を認める。こうした価値観が、民主主義の基礎にある。近現代社会の基盤となっている「人権」や「個人主義」「自由主義」といった政治概念も、「人間至上主義」という宗教から派生した概念に他ならない。

 さらに国家主義や共産主義といったイデオロギーや政治体制も、「人間至上主義」という宗教の一宗派の一つであり、共同主観による一種の幻想に過ぎない、とハラリは指摘する。

 しかしながら最新の現代科学は、「人間至上主義」という宗教の根幹を揺るがしつつある。

 遺伝子工学によってDNAの解読が進み、「人間の意思決定は分離不可能な意識の産物ではなく、進化の過程で獲得された有機的なアルゴリズム(データ処理法)に過ぎない」事が次第に判明しつつある。

 人間の「意識」は、これまで「知能」と不可分であると見做されてきたが、現代では人工知能(AI)という「意識を持たない知能」=「非有機的アルゴリズム」が急速に発展し、人間の有機的アルゴリズムを凌駕しつつある。

 人間がAIに劣る情報処理能力しか持たないのであれば、人間の価値とは一体何なのか?

 ハラリは、「神を殺した人類は、自ら「ホモ・デウス」(神人)にならんとする」と予言している。

 近い将来、一部の富裕層は、遺伝子工学などテクノロジーによって自らの肉体と知能をアップグレードし、「神のヒト(ホモ・デウス)」へと進化してゆくであろう。

 他方では、現人類(=ホモ・サピエンス)のまま進化から取り残された大多数の人間が存在することになる。

 かくして人類は、近未来に「神のヒト(ホモ・デウス)」と「無用者階級(Useless Class)」とに二分されてゆくとハラリは予言する。

 人間の脳を凌駕したアルゴリズムの出現によって、生身の人間は労働市場において不要となる。大部分の仕事が人工知能に任せられるようになり、人間は労働の現場から締め出される。かくして大量の「役立たずの人間」=「無用者階級」が発生する。

「21世紀には、私達は新しい巨大な非労働者階級の誕生を目の当たりにするかもしれない。経済的価値や政治的価値、さらには芸術的価値さえ持たない人々、社会の繁栄と力と華々しさに何の貢献もしない人々だ。この「無用者階級」は失業しているだけではない。雇用不能なのだ」(ハラリ『ホモ・デウス』)

 来たるべき未来社会は、こうした大多数の「無用者階級」を、一握りの「ホモデウス」が統治支配する社会になると考えられる。

「ホモ・デウス」(神人)と「ホモ・サピエンス」(現人類)とは、生物的に異なる存在である。

 生物的に上位の力を持つ超人が、生物的に劣るサピエンスに対し、「相手の立場」に立って考えたり、「共感」や「同情」の観念を抱く事が果たして出来るだろうか。

 両者の関係は、人間と動物との関係と変わらないであろう。そこには、絶対的な支配・被支配関係が成立する。

 来たるべき未来社会が、ユートピアなのかディストピアなのか、その方向性を決めるのは、まだ「サピエンス」状態である現在の人類であることは確かである。













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